世界の役目
「ああ、もちろん。結論から言うと、あの世界は元々────聖女を昇天させたら、消える運命だったんだ」
嫌な顔一つせず、話を切り出した旦那様は窓の外へ目を向ける。
「あれは────聖女を生み出すためだけに作られた世界なんだ。だから、聖女の創造・成長さえ済めば、役目を終える。イメージとしては、そうだね……巨大な卵とでも思ってくれれば、いい」
えっ?聖女を生み出すための卵……?あの大きな世界が……?
話のスケールが大き過ぎて、ついていけないのだけど……。
俄には信じ難い事実を前に、私はただただ呆然とする。
困惑気味に目を白黒させる中、旦那様はおもむろに人差し指を立てた────かと思えば、指先から赤色の液体が飛び出る。
透明感のある液体はふわりと宙に浮き、球体を作り出した。
「世界は数千年の時をかけて、中の環境を整え、人間達に知恵を与える。そして、聖女の成長に必要な要素が揃ったら、本格的に聖女の形成を始めるんだ。これにより、聖女という生命体が世界で誕生する」
聖女の誕生について淡々と語る旦那様は、赤色の球体の外に、青色の液体を付け足す。そして、赤色の球体をグルッと囲い込んだ。
色の重なりにより、球体の色は鮮やかな紫に見える。
「この世界は中に居る聖女に悪影響が出ないよう、外界からの干渉を完全に遮断している。僕達がメイヴィスに干渉出来なかったのも、世界を守っている結界のせいなんだ」
旦那様は青色の液体をツンツンと指でつつき、結界だとアピールした。
「外界からの干渉を遮断する結界は、聖女が昇天するのと同時に破壊される。そして────結界を破壊された世界はあらゆるエネルギーの影響を受け、やがて消滅するんだ」
そう言うが早いか────青色の球体はパンッと音を立てて、弾け飛ぶ。
飛び散った液体を目で追う私は、『聖女と世界は一心同体だったって、訳ね』と納得した。
幻のように消える青色の液体を一瞥し、私は取り残された赤色の球体に目を向ける。
「では────聖女誕生に使われてきた世界は、全て滅びてきたのですか?」