執務室
長い長い廊下を進み、執務室に辿り着いた私達はカシエル・アイシャさん・ヘレス様の三人と顔を合わせる。
思ったより早く戻ってきた私達に、三人は大きく目を見開いた────かと思えば、複雑な面持ちでこちらを見据える。
『大丈夫なのか?』と気遣う眼差しに、私は小さく頷いた。
「先程はお騒がせしてしまい、申し訳ございませんでした。もう落ち着いたので、大丈夫です」
先程の非礼を詫びる私に、彼らは『こちらこそ、申し訳なかった』と謝罪する。
バツの悪そうな顔で俯く彼らに、私はフルフルと首を横に振った。
『どうか、気に病まないでほしい』と主張し、私はそっと目を伏せる。
そして、一旦気持ちを切り替えると、ゆっくりと顔を上げた。
「────下界での出来事を全てお話しするので、良ければ聞いて頂けませんか?」
緊張で震える手をギュッと握り締め、私は恐る恐る質問を投げかける。
すると、彼らは────『もちろん!』とでも言うように大きく頷いてくれた。
快く了承してくれたことにホッとする私は、僅かに肩の力を抜く。
そして、旦那様と顔を見合わせると、どちらからともなく笑い合った。
話し合いを拒絶されなかったことに安堵する中、私達はそれぞれソファに腰を下ろす。
「まず、確認なんですが……皆さんは下界での出来事をどこまで知っていますか?」
円滑に話を進めるため、私は周知されている内容について尋ねた。
すると、旦那様は少し考えてからこう答える。
「確か、偽聖女だと弾圧されたところまで……だったかな?そこら先は、憶測でしか話してない」
「分かりました。では、城に連行されたところからお話しますね」
予想通りの回答にコクリと頷いた私は、目前まで迫った死因の説明に不安を感じるものの……何とか平静を装う。
正直、まだ本当のことを話すのは怖いが……これ以上、隠し事は出来なかった。
『皆の優しさに甘える訳にはいかない』と自分に言い聞かせ、緊張で強ばる体に鞭を打つ。
しゃんと背筋を伸ばした私は、真っ直ぐに前を見据えた。
「私は偽聖女の濡れ衣を着せられた後、騎士達に地下牢まで連行され────トリスタン王子に『身も心も私に捧げると誓うのなら、助けてやる』と言われました」




