謝罪
扉の向こうには、案の定旦那様とハワードの姿があり、二人とも驚いた表情でこちらを見つめている。
まさか、こんなにすんなり扉を開けるとは思わなかったらしい。
呆気に取られる二人を前に、私は深々と頭を下げた。
「話し合いを放棄したり、急に怒鳴ったりして、ごめんなさい……それから、下界での出来事を黙っていたことも」
申し訳ない気持ちでいっぱいになる私は己の非をしっかりと認め、謝罪する。
頭を下げたまま動かずにいると、二人はハッとしたように目を見開いた。
「いや、メイヴィスが謝る必要はないよ……!こっちこそ、その……色々とごめんね!」
「メイヴィス様の本意にそぐわない行動を取ってしまい、申し訳ございませんでした!非は全て自分にあります!ですから、顔を上げてください!」
焦ったように声を張り上げる旦那様とハワードは、オロオロと視線をさまよわせる。
困惑気味に眉尻を下げる二人に促され、私はゆっくりと顔を上げた。
旦那様もハワードも優しいわね。
私は自分のことしか、考えていなかったのに……。
責めるどころか、『悪くない』と庇ってくれるなんて。
『二人には、一生頭が上がらないわね』と苦笑しながら、私はしゃんと背筋を伸ばした。
「下界のことについて、話があります。カシエル達も混じえて、お話しすることは出来ませんか?」
『話し合いの場を設けて欲しい』と要求した私は、黄金に輝く眼を見つめる。
『包み隠さず全て話す』と匂わせたせいか、旦那様の表情が硬くなった。
神妙な面持ちでこちらを見据え、彼は一歩前へ出る。
「分かった。じゃあ、執務室へ移動しようか。きっと、カシエルも戻って来ている頃だから」
場所の変更を提案する旦那様は、こちらに手を差し伸べた。
エスコートの申し出に目を剥く私は、どんな時でも気遣いを忘れない旦那様に苦笑する。そして、そっと手を重ねた。
ギュッと握られた自身の手を見下ろし、私は僅かに目を細める。
じんわりと伝わってくる体温に頬を緩めながら、私は旦那様やハワードと共に歩き出した。