腹を括る
相手の言い分も聞かず、一方的にハワードを責めてしまった……。
きっと、私のことを気遣って黙っていてくれただけなのに。
「私って、本当に最低ね……」
扉を背にして、しゃがみ込む私はポロポロと大粒の涙を流した。
余裕のない自分が嫌で嫌で堪らない。もういっそのこと、消えてしまえとさえ思う。
自責の念に駆られ、早くも自暴自棄になる中、部屋の扉をノックされた。
「────メイヴィス、扉を開けておくれ。一度、ちゃんと話をしよう」
扉越しに聞こえたのは────心地好いテノールボイスだった。
『旦那様……?』と首を傾げる私は、そろそろと顔を上げる。
でも、どんな顔をして会えばいいのか分からず、直ぐさま俯いた。
旦那様はどこまで知っているんだろう?まさか、全部……?
いや────それはない筈……ハワードの知っている情報は限られているから。
なら、このまま黙っておけばいいのでは……?
急に怒った事と事実を隠していた事について謝って、仲直りすれば全て元通りになる筈……。
事実を曖昧にする方向で考える私は、『バレなければいいんだ』と自分に言い聞かせる。
でも、罪の意識は消えなくて……良心の呵責に苛まれた。
私はまた旦那様に隠し事をするの?そうやって、ずっと隠し続けて……旦那様の優しさに甘えるの?
それは────少し違う気がする。
夫婦なんだから、何でも打ち明けるべき……とまでは言わない。でも、大事なことをひた隠しにして何も言わないのは────卑怯だわ。
『有耶無耶にしてしまえ』と囁く自分の中の悪魔を抑え込み、私はゆっくりと立ち上がった。
扉越しに旦那様と向き合い、全てを打ち明けようと決意する。
『たとえ、自分の意思で死を選んだことを責められても構わない』と、私は腹を括った。
ずっと避けてきた事態に直面するのは、正直怖い……でも、もう前に進まなくては。
使命感にも似た感情に押され、私はドアノブに手を伸ばす。
そして、一度深呼吸すると────思い切って、扉を開けた。
ストックが切れてしまったので、明日(2022/07/29)から、一日一回更新(19:30の更新のみ)になります。
もし、本作の更新を楽しみにしていた方が居たら、申し訳ございません!




