油断《レーヴェン side》
メイ、ヴィス……?どうして、ここに……?まさか、さっきの会話を聞かれて……!?
「こ、これはその……違うんだ!ちょっとした冗談というか、言葉の綾というか……!」
ガタッと勢いよく席を立った僕は、自分でもよく分からない弁解を繰り広げる。
どうにかして、誤魔化せないかと躍起になる中────メイヴィスは無言で踵を返した。
終始俯いていたので、どんな表情をしていたのかは分からないが……きっと笑顔ではないだろう。
やってしまった……メイヴィスは今頃、書斎で本を読んでいると思って、油断した。
これは完全に僕の落ち度だ。
『恐らく、本関連で何か用事があったんだろうな』と推理しながら、僕は深い溜め息を零す。
一番大切な人を傷つけてしまったと落ち込む中、カシエルはおずおずと手を挙げた。
「あの、レーヴェン様……どうしますか?第六の復讐は一旦保留にします?」
メイヴィスの反応を見て尻込みしたのか、カシエルは困ったように眉尻を下げる。
復讐に乗り気だったヘレスやアイシャさえも、固く口を閉ざし、縮こまっていた。
誰もが決断を躊躇う中、僕は水晶に映る人々をじっと見つめる。
「……いや、予定通り実行しておくれ。どうせ、もう後には引けないんだから」
世界崩壊のタイムリミットを考え、僕は強行するよう命じる。
水晶に映る人々を一瞥し、カシエルに視線を戻すと、彼は真剣な面持ちでこちらを見据えた。
「分かりました。では、天使達の招集と降臨の準備をしてきます」
「ああ、あとは任せる」
深々と頭を下げるカシエルに頷き、僕は一つ息を吐いた。
憂鬱な気分になりながらも、扉の向こうに消えていく彼の後ろ姿を見送る。
さてと……僕もメイヴィスの下へ行こうか。
どうやって弁解すればいいのか、全く分からないけど、放置は出来ない。
たとえ、どんなに無様で、惨めで、格好悪くても……しっかり、メイヴィスと向き合わなくては。自分なりの言葉と行動で。
今頃、どこかで泣いているかもしれないメイヴィスを想い、僕は覚悟を決める。
そして、ヘレスとアイシャにどこにも行かないよう、言い含めてから────僕は執務室を後にした。