反吐が出る《レーヴェン side》
一度メイヴィスと別れ、執務室にやってきた僕達は教会側の講じた策に、呆れ果てていた。
まさか、ここまで往生際が悪いとは思わなかったよ。
仮にも、神に仕える信徒だろう?潔く罪を認めようとは、思わないのかい?
「メイヴィス様を魔女に仕立て上げるなんて……お粗末な作戦ですね」
「いや、そうでもないぞ?人間ってのは、英雄に憧れる生き物だ。しかも、あの女は今まで心優しい聖女様を演じてきた。生贄の儀式と題して、派手なパフォーマンスでもすれば、民衆たちはあっさり教会側の言い分を信じるだろう」
「……その可能性は否定出来ないわね」
カシエル、ヘレス、アイシャの会話に耳を傾けつつ、僕はチラリと水晶に目を向ける。
教会側の講じた作戦は確かにお粗末だが、それを実現させるだけの活躍を、あの女はしてきた。
民との触れ合い、治癒魔法の無料奉仕、物資支援を始めとする慈善活動……その小さな積み重ねが民の心を動かす大きな原動力となるだろう。
「メイヴィスを殺すだけでは飽き足らず、彼女の名誉まで傷つけようとするとは……人間って、つくづく愚かだね。本当に反吐が出るよ……」
言いようのない怒りに支配される僕は、ギシッと奥歯を噛み締めた。
水晶に映る愚かな人間達を睨みつけ、額に青筋を浮かべる。
怒りに震える僕は、今すぐ世界を滅ぼしたい衝動に駆られるものの……何とか冷静さを保った。
「まあ、人間達の思い通りにはさせないけどね────カシエル」
「はい、レーヴェン様」
即座に呼び掛けに応じたカシエルは、恭しく頭を垂れた。
「天使隊を率いて下界に降臨し、人間達の罪を暴いておいで。自分達の無知さと愚かしさを知らしめてやるんだ。そして、教えてあげるといい……自分達の世界がどうなるかを」
世界の終わりを悟った時、人間達はどんな反応をするのだろうか……と、僕は考える。
『醜い姿で泣き叫んでほしいな』と願う僕は、ニヤリと口元を歪めた。
「これはメイヴィスを死に至らしめたことに対する報復であり、神々の怒りを買った罰だ。だから、遠慮はいらな……」
『遠慮はいらない』と続ける筈だった言葉は────扉越しに聞こえた物音に掻き消される。
扉の向こうに誰かが居るのは明白で、少しだけ焦りを覚えた。
『しばらく誰も近寄るなと言っておいた筈なのに……』と思案する中、カシエルが部屋の扉を開ける。
すると、そこには─────床に落ちた本を慌てて拾い上げるメイヴィスの姿があった。