九死に一生を得る《ロゼッタ side》
外に行けばドラゴンが、ここに留まれば民達が私を攻撃する。逃げ場なんて、どこにもない。
私はジリジリとにじり寄ってくる平民達を前に、必死に考える。
だが、こんな時に限って頭の中は真っ白で……打開策なんて一つも思い付かなかった。
「い、嫌っ……!近寄らないで……!」
恐怖のあまり震え上がる私は、悲鳴にも似た声で抗議する。
でも、興奮状態の人間達には無意味だったようで……あっという間に取り囲まれてしまった。
憤怒と憎悪の籠った眼差しを向けられ、私は涙目になる。
嫌……嫌っ!こんなところで死ぬなんて、絶対に嫌!!
私は皆に愛される聖女になって、歴史に名を残すの……!!だから、こんなところで死ぬ訳にはっ……!!
「このっ!偽聖女が!!」
「メイヴィス様に謝れ!」
「よくも俺達を騙してくれたな!?」
「私達の敬愛する聖女様を返して!」
各々拳を振り上げる平民達は、憤怒の形相でこちらを睨みつける。
本物の聖女を殺した悪女だと罵る彼らに、私は何も言い返せなかった。
だって、本当のことだから……私は所詮、偽物に過ぎない。本物にはなれないのだ。
「死ねっ!偽物……!!」
その言葉を皮切りに、平民達は一斉に拳を振り下ろす。
私は衝撃に備えるように体を縮こまらせ、ギュッと瞼を閉じた────が、一向に彼らの拳が飛んでこない。
あ、あれ……?もうそろそろ、体に痛みが走ってもおかしくない頃なのに……。
不思議に思った私は恐る恐る……本当に恐る恐る目を開ける。
すると、そこには────怒り狂った平民達を取り押さえる聖騎士団の姿があった。
なっ……!?フィオーレ王国の近衛騎士団に匹敵する実力を持つ聖騎士団が何故、ここに……!?
余程のことがない限り、表舞台に出て来ない筈なのに……って、今回は十分『余程のこと』に入るか。
とりあえず、聖騎士団が出動したなら安心ね。
九死に一生を得た私はホッと息を吐き出し、肩の力を抜く。
そこへ、民の捕縛を終えた聖騎士の一人がやってきた。
「聖女様、我々はドラゴンの討伐に向かいます。聖女様は教会本部に戻り、負傷した者達の世話をお願い致します」
「わ、分かったわ」
どうやら、教会側はまだ私の使い道があると考えているようで、帰還命令を出してきた。
なんか怪しいなと思いつつも、他に選択肢もないので頷いておく。
私の立場が危うくなれば、実家は直ぐに私を切り捨てるでしょうし、今は教会側の指示に従っておきましょう。




