婚礼式
ハワードに部屋まで送ってもらい、眠りについた私は婚礼式当日を迎えた。
儀式に使用する白い衣装に着替え、城の地下室へと向かう。
婚礼式は特殊な設備が施された場所でしか出来ないため、移動を余儀なくされた。
私は白いローブに身を包む旦那様と共に階段を降りていき、開けた空間に出る。
十畳程度の空間には小さな祭壇が立てられているだけで、他には何もなかった。
強いて言うなら、壁や床にビッシリと変な文字が書き込まれているくらいである。
「ここに地下室なんて、あったのね。全然、気づかなかったわ」
「まあ、ここは普段使われていないからね」
「そうなのか?俺達の城の地下室は、ほぼ毎日使っているぞ。うちは仕事をサボる天使が多いからなぁ。お仕置き部屋として、恐れられてるぜ」
当時の状況を思い出したのか、ヘレス様はケッケッケッと怪しげに笑う。
でも、アイシャさんにベシッと腕を叩かれて直ぐに黙った。
愛する妻にはどう頑張っても、敵わないらしい。
「それじゃあ、メイヴィス。ちょっと待っていてね?直ぐに準備を終わらせるから」
ポンポンッと優しく私の頭を撫でた旦那様は、ゆっくりと祭壇に近づいた。
壁や床に刻まれた文字を目で追い、ロウソクや花を祭壇の上に並べる
せっせと働く旦那様の後ろで、私はただ待つことしか出来なかった。
出来ることなら手伝いたいが、作業の邪魔にしかならないと思うので、断念する。
ある程度説明は受けているとはいえ、素人に変わりはないから。
「……よし、これで大丈夫かな?」
ロウソクや花の微調整を行っていた旦那様は、祭壇から手を離す。
そして、おもむろにこちらを振り返ると、ニッコリ微笑んだ。
「さあ、メイヴィス。こっちにおいで」
旦那様に手招きされ、私は促されるまま彼の隣に並んだ。
すると、祭壇の上に置いてあったロウソクが突然燃える。誰も火をつけていないのに、だ。
事前に説明は受けていたけど、やっぱりちょっとビックリするわね。
「メイヴィス、今朝教えた呪文は覚えている?」
「はい」
「じゃあ、それをゆっくり唱えて」
「分かりました」
旦那様の言葉に即座に頷き、私は今朝教えてもらったことを振り返る。そして、ゆっくりと口を開いた。
「────我は汝の唯一であり、一番であり、至高の存在。我は汝の伴侶となり、永遠の愛を誓おう。我は汝に全てを捧げる」