解散《レーヴェン side》
「確か、そっちの世界には魔物とか特に居なかったよな?突然、謎の生物が現れれば平和ボケした奴らも危機感を煽られるんじゃねぇーか?」
『教会と王家を弾圧する決定打になるだろ』と主張し、ヘレスは魔物の召喚を勧めてくる。
地獄の管理者らしい提案に苦笑しながら、僕は魔物に関する知識を呼び覚ました。
魔物────それは魔力のみで構成された生物のことをさす。
全体的に知能は低いが、そのぶん野生動物より強くて頑丈に出来ている。
また、本能に忠実な生き物で、極めて凶暴性が高かった。ちなみに好物は人間の生肉である。
人の言うことを全く聞かないから、魔物はあんまり好きじゃないんだけど……人間達に更なる絶望を与える、またとないチャンスだ。最大限、利用させてもらおう。
「なるほどね……ちなみに魔物は何体、送り込むつもりなんだい?さすがに際限なく送る訳じゃないよね?僕らが直接手を下す前に死なれては、困るんだけど……」
「確かにそうだな……じゃあ、ドラゴン二体でどうだ?数は少ないが、破壊力は半端ねぇーからな」
悩むような動作を見せながらも、ヘレスはきちんと質問に答える。
『見た目も派手で、迫力あるぜ』と付け加える彼を前に、カシエルは少し考え込んだ。
「問題は人間共が上手くドラゴンを倒せるかどうかですけど……まあ、二体程度なら何とかなりますよね!あの世界には、一応魔法も存在しますし!」
自己完結したカシエルは、『人族の武力を信じましょう!』と主張した。
確かに魔法文化はある程度発展しているので、手も足も出ずに降参……ということはないだろう。それでも、甚大な被害は避けられないだろうが……。
『最悪の場合、復讐のターゲットさえ生きていればいいか』と判断し、僕も召喚に賛成した。
────と、ここでヘレスが立ち上がる。
「んじゃ、俺達は魔術式の調整とドラゴンの確保に行ってくるぜ」
『また後で会おう』と口にするヘレスは、ご機嫌斜めなアイシャに手を伸ばす。
そして、愛する妻を抱き上げると────一瞬にして姿を消した。