台無し《教皇聖下 side》
『異常現象のせいで何もかも台無しだ』と嘆く私は、資料で埋まった机に近づいた。
そして、資料の山から、ある一通の手紙を引っ張り出す。
セレスティア王国の紋章が施された手紙には、国王陛下の名前が書かれていた。
信心深い人物であるセレスティア王国の国王は、聖女の交代に難色を強く示した方だ。
『聖女とは神の花嫁に与えられる称号であり、優秀な女性に与えられる称号ではない』と、我々の決定に強く反発していた。が、元聖女メイヴィスの処刑がもう終わっていた事と新聖女ロゼッタが意外と人気だった事もあり、一先ずは聖女交代に納得したのだ。そう、一先ずは……。
私は封筒の中から便箋を取り出すと、長ったらしい文章に目を通す。
文章越しでも分かるほど、セレスティア王国の国王は怒り狂っていた。
『やはり、メイヴィス様こそが本物の聖女だった』
『神の逆鱗に触れた。このままでは、世界が滅ぶ』
『早く偽物を聖女の座から引きずり下ろし、神に謝罪しろ』
『この無能な教皇が!!親愛なる神の信徒でありながら、本物の聖女様を殺すなど許されることではない!』
もはや言いたい放題の国王だったが、彼の言い分は決して間違っていなかった。
このまま異常現象が続けば、各国のトップや教会の信徒たちも『元聖女メイヴィスを陥れたから、神の怒りを買った』と思い始めるだろう。
だからと言って、人気の高いロゼッタを今すぐ聖女の座から引きずり下ろすことは出来ない……。
そもそも、そんなことをすれば我々が……最も信心深き教会が間違いを認めることになる。そんなこと、あってはならない!
「だが、このまま放置するのは危険か……よし、ロゼッタあたりにこの件の対策を考えさせるか。あいつは王族とも面識があるし、適任だろう」
元はと言えば、ロゼッタが言い出した事だしな。聖女交代事件の当事者である彼女に対処を任せるのが道理だろう。
なんて、それっぽい言い訳を並べる私は、ロゼッタに全てを丸投げするのだった。




