無邪気な人
「えっと、私はメイヴィスです。それで、その……アイシャ様の旦那様は今、どちらに?」
キョロキョロと視線をさまよわせる私は、『男性の姿が見当たらない』と首を傾げる。
『置いてきたのだろうか?』と疑問に思う中、アイシャ様はチラリと城の方を振り返った。
「夫なら、レーヴェンの執務室に居るわよ!今頃、男同士でくだらない話でもしているんじゃない?それより、メイヴィスちゃんって呼んでもいいかしら!?私のことも好きに呼んでくれて、構わないから!あっ、でも!『様』付けは禁止ね!なんだか距離を感じて、寂しいもの!」
「は、はい……では、アイシャさんと呼ばせて貰いますね」
急激に距離を縮めてくるアイシャさんに困惑しつつも、私は何とか言葉を返した。
今までにない対応に新鮮さすら感じる中、アイシャさんはズイッと顔を近づけてくる。
「メイヴィスちゃんって、本当に綺麗よね!レーヴェンには、勿体ないくらいよ!」
至近距離でこちらを見つめるアイシャさんは、『お人形さんみたいね!』と、はしゃいだ声を上げた。
お世辞とは思えない褒め言葉に、私は思わず照れてしまう。
『そんなことはないと思うけど……』と思案しつつ、熱くなった頬を手で押さえた。
「あ、アイシャさんもとてもお綺麗です……!」
「あら、ありがとう!凄く嬉しいわ!」
『うふふっ』と上品に笑うアイシャさんは、至近距離にあった顔を遠ざける。
そして、眩しい太陽を見上げると、こちらに視線を戻した。
「もうそろそろ、レーヴェン達のところへ入りましょうか!私、喉が渇いちゃった!続きはお茶でも飲みながら、ゆっくり……ねっ?」
『涼しいところに行こう』と誘うアイシャさんは、コテリと首を傾げる。
見たところ、汗は一切掻いていないようだが、確かにちょっと暑そうだった。
そろそろ、私も限界だったし、ちょうど良かった。
ここまで日差しが強いと、直ぐに疲れちゃうのよね。晴天なのはいいことだけど……。
「分かりました。一旦、中に入りましょう」
アイシャさんの提案に直ぐさま賛同した私は、城の方へ足を向けた。




