不審者?
青々と広がる空を見上げながら、私は裏庭に繋がる通路を進んだ。
肺いっぱいに外の空気を吸い込み、清々しい気分で前進する中────私は目的地に辿り着く。
まず目に飛び込んできたのは、四季折々の花で満たされた美しい空間だった。
自然の神秘とも呼ぶべき光景を前に、私は瞠目する。
旦那様に散歩を勧められて、来てみたけど、本当に綺麗ね。
聖書に載っていた楽園って、こんな感じかしら?
美しく咲き誇る花々に心奪われる私は、僅かに表情を和らげる。
『ハワードも連れてくれば良かった』と考える中、突如背中に衝撃が走った。
「────やっと見つけた!」
耳元で聞こえる弾んだ声に、私は『えっ!?誰なの!?』と目を見開く。
そして、ようやく知らない人に抱きつかれたのだと悟った。
『ふ、不審者……!?』と混乱する中、抱きついてきた人物は一旦体を離し、私の前まで躍り出る。
「ねぇ、貴方でしょう!?レーヴェンのお嫁さんって!」
そう言って、キラキラと目を輝かせるのは────作り物のように美しい女性だった。
艶のある黒髪を風に靡かせ、ニッコリと笑う彼女はルビーの瞳に喜びを滲ませる。
また、胸元の空いたドレスを着用しており、すべすべした小麦色の肌が特徴的だった。
大人っぽい顔立ちも実に艶やかで美しく、おまけにスタイルも良い。
仕草や表情は少し幼いが、憎めない感じで非常に愛らしかった。
『ねぇ、貴方よね!?』と詰め寄ってくる彼女に、私はたじろぐ。
戸惑いながらも、おずおずと頷くと、彼女は嬉しそうに頬を緩めた。
「私はアイシャよ!レーヴェンのお嫁さんがこっちに来たって聞いて、会いに来たの!夫と一緒にね!」
『会いたかったわ!』と真っ直ぐに想いを伝えてくる彼女────改め、アイシャ様は至って上機嫌である。
無邪気に笑う彼女を前に、私は少しだけホッとしてしまった……伴侶持ちで良かった、と。
旦那様を呼び捨てにするほど、仲のいい彼女が恋敵だったらと思うと、本当に恐ろしい。
最悪の未来を想像した私は身震いしながら、ルビーの瞳を控えめに見つめ返した。
「えっと、私はメイヴィスです。それで、その……アイシャ様の旦那様は今、どちらに?」