違和感
どうして、ハワードは自分のことばかり責めるの……?罰せられるのはむしろ、私の方なのに……でも、無罪放免だと主張しても、ハワードはきっと納得しないわよね……なら────。
「────私のお世話係として働き、天界に貢献しなさい。仕事で成果を上げること……それが貴方への罰よ」
わざと命令口調を使って強気に出る私は、精一杯の威圧感を放つ。
『口答えは許さない』と態度で示す私に、ハワードは難色を示した。
「ですが、それは……」
「反論は受け付けない」
どうせ、『それは罰じゃない』とか言うつもりでしょう?そんなの許さないわよ。
私は巻き込んでしまった責任を取ることすら、出来なかったんだから。これくらいは大目に見てもらわないと、割に合わないわ。
『これでも、かなり譲歩した方よ』と主張しながら、私は会話を終了させた。
反撃を封じられたハワードは、ちょっと不服そうだったが……渋々といった様子で口を閉ざす。
沈黙を守る彼にホッとし、私は『今のうちに次の話題へ移ろう』と画策した。
「ねぇ、それより聞きたいことがあるのだけど……」
そこで一旦言葉を切り、私はおずおずと青の瞳を見つめ返す。
「旦那様やカシエルに────私の死因について、話した……?」
恐る恐るといった様子でそう尋ねる私は、震える手をギュッと握り締めた。
質問の意図を推し量るハワードは、数秒ほど沈黙し────ハッとしたように顔を上げる。
「もしや、まだ打ち明けておられないのですか……?トリスタン王子の策略に嵌り、偽聖女扱いされたことを……」
「え、ええ……」
困惑した様子のハワードに返事をし、私は曖昧に微笑んだ。
後ろめたい気持ちでいっぱいになる私を他所に、彼は口元に手を当てる。
「なるほど……それで、私を……」
納得したように何度も頷くハワードは、空中に視線をさまよわせた。
考え込むような動作を見せる彼に、私はすかさず噛み付く。
「えっ?どういうこと?」
「いえ、何でもありません。それより、レーヴェン様とカシエル様にはいつ頃、お話しする予定ですか?」
「それは……まだ分からないわ。気軽に話せるような内容でもないから、話しづらくて……だから、この事はまだ黙っていてほしいの。いつか、ちゃんと私の口から話すから……!」
『お願い!』と手を合わせる私は、必死に懇願した。
すると、ハワードは困ったように眉尻を下げる。
強ばった表情で言葉を詰まらせ、悩ましげに眉を顰めた。そして、躊躇いがちに口を開く。
「そう、ですか……分かりました……」
いつになく歯切れの悪いハワードは、居心地悪そうに視線を逸らした。
いつになく落ち着きのない彼に、私は違和感を抱くものの……『神様相手に隠し事をするのが嫌なのだろう』と結論づける。
────どこまでも能天気な私は、既に秘密を暴露されているなんて……夢にも思わなかった。




