原因不明の事態《ロゼッタ side》
ど、どうしよう……?素直に魔法が使えないって、言う?でも、そんなことを言ったら、就任早々お払い箱にされるかもしれない……。
だからと言って、これは隠し通せる問題でもないし……。
「……実はちょっと調子が悪いみたいで、上手く魔法が使えないの。悪いけど、今日の予定はキャンセルにしてくれる?それから、私に治癒魔法を掛けてくれないかしら?なかなか体の痺れが取れなくて……」
我ながら、完璧な言い訳だ。
ハッキリ言って、その場凌ぎの嘘にしかならないが、まあ……何とかなるだろう。
本当に疲れが溜まっていて、魔法が使えないだけかもしれないし……。
希望的観測でしかない考えを脳裏に思い浮かべ、私は『一時的なものであって欲しい』と願った。
そんな訳ないと分かっているのに……。
「は、はい。分かりました。私の魔法力では力不足かもしれませんが、精一杯頑張ります────《ヒール》」
神官の女性は緊張した様子で私の腕にそっと触れ、呪文を唱える。
そして、触れたところから彼女の魔力が流れ込んでくる……筈だった────本来であれば。
だが、待てど暮らせど彼女の魔力は流れて来ない。そうなると、当然ながら魔法も発動しない訳で……。
「あ、あれっ!?おかしいな……ちゃんと詠唱した筈なのに……!《ヒール》!《ヒール》!何で魔法が発動しないの!?」
先程の私と同じように取り乱す神官の女性は、何度も詠唱を繰り返す。
でも、結果は変わらない……。
突然魔法が使えなくなったのは、私だけじゃなかったのね。
何者かの意図が感じられる状況に、私は眉を顰める。
『一体、何が起きているの?』と困惑する中、扉越しに人の話し声が聞こえた。
『おい、魔法が使えないぞ……!』
『教皇聖下に早く連絡を……!』
『とりあえず、今日は近くの治癒院へ民達を誘導して!』
神官達の焦った声を聞きながら、私は状況を整理する。
神官達がここまで大騒ぎしてるってことは、恐らく────教会本部で働くほとんどの人間が魔法を使えなくなっている可能性が高い。
世界規模で同じ状態になっている可能性もある。
就任早々、大変なことになったわね。
原因不明の事態に憤りを覚える私は、ギリッと奥歯を噛み締めた。