本題《ハワード side》
「とりあえず────メイヴィスの死因に関わること全て……思いつく限り、話してくれる?」
『どんな事実でも受け止める』と覚悟を決めた上で、レーヴェン様は本題に入る。
真剣味を帯びた瞳には、表情を強ばらせる私の姿が映っていた。
「分かり、ました……では、まず────フィオーレ王国の第一王子トリスタン・ストレチア・フローレンスにプロポーズされた件から、お話し致します」
不安と緊張に苛まれながらも、私は意を決して口を開いた。
『プロポーズ』という単語にピクッと反応を示したレーヴェン様とカシエル様は、僅かに顔を顰める。でも、話の腰を折ることはなかった。
一先ず、最後まで話を聞くつもりなのだろう。
「トリスタン王子は以前から、聖女様に恋心を抱いておりました。そして、頻繁に教会へ足を運び、聖女様と面会していたのです。正直、迷惑でしかありませんでしたが、王族を蔑ろにする訳にもいかず……ズルズルと交流は続いていました。そんなある日、トリスタン王子は高そうな指輪を持って、聖女様にプロポーズしたのです。お前のような美しい女には次期国王である私こそ、相応しい、と……」
「ほう?それで?」
冷ややかな目でこちらを見つめるレーヴェン様は、相当頭に来ているようだった。
『僕の花嫁に横恋慕するとはいい度胸だ』と言わんばかりに、両腕を組む。
怒りの矛先はトリスタン王子に向いていると分かっていても、やはり恐ろしいな……。少しでも気を抜いたら、卒倒しそうだ。
『神様の気迫は凄まじいな』と苦笑いしつつ、私は震える手をギュッと握り締めた。
「聖女様はもちろん、お断りされました。自分は神の花嫁だから、と……。でも、トリスタン王子は聞く耳を持たず……あろう事か、教会の敷地内で『神など存在しない』と愚弄したのです。それに激怒した聖女様がトリスタン王子を追い出し……反感を買ってしまいました」
「ふ〜ん?反感、ねぇ……」
トントンッと肘を一定のリズムで叩くレーヴェン様は、意味ありげに目を細める。
プロポーズをキッパリ断ったと聞いて、かなり溜飲は下がったようだが……それでも、嫌悪感は隠し切れていなかった。
不愉快そうに眉を顰めるレーヴェン様に内心怯えつつ、私は説明を続ける。
「それから、一週間ほど何事もない日が続き……事前に何の連絡もなく、トリスタン王子は現れました。今度はジェラルド公爵家のロゼッタ様と王国騎士を引き連れて……」
「大勢で押し掛けるとは、野蛮ですね……!一人では何も出来ないからって、卑怯ですよ!」
思わずといった様子で声を荒らげるカシエル様は、額に青筋を浮かべた。
感情に呼応して動くのか、純白の翼はバサバサと音を立てる。
『どこまでクズなんですか?その王子は』と苛立つ彼に、私は一抹の不安を覚えた。