同情の余地なし《ロゼッタ side》
嫌……!もう死にたくない……!痛いのは、もう嫌なの……!!
グリフォンと呼ばれる魔物に肩を掴まれ、空を飛ぶ私は涙目で地上を見下ろす。
人が豆粒のように見えることから、相当高い位置に居ることだけは、理解出来た。
「嫌っ!お願いっ!助けて……!!メイヴィスのことは、謝るから!!」
鳥のような魔物に懇願しながら、私はジタバタと暴れる。
みっともなく命乞いをする私に、魔物は一瞥もくれない。
こちらの言い分など、どうでもいいのか……一瞬の躊躇いもなく、肩から手を離した。
刹那────私の体は重力に従って、下へ落ちていく。
どんどん近づいてくる地面に恐怖しながら、私は身を竦めた。
ま、また死ぬの……?あの硬い地面に打ち付けられて……?
「い、いやぁぁぁぁあああ……!!誰か助けてぇぇぇえええ!!死にたくなっ……」
『死にたくない』と嘆くことすら許されず────私の体は勢いよく地面に打ち付けられた。
ベシャッと嫌な音が鳴り響く中、潰れた頭や腹から大量の血を流す。
体は徐々に冷たくなっていき、視界も霞んで行った。
悲鳴を上げることすら出来ない私は、絶望の中でそっと意識を手放す。
もはや、死に抗うことなど出来なかった。
────メイヴィスに謝れば、この悪夢から解放されるのだろうか?
────メイヴィスに許しを乞えば、全てが丸く収まるのだろうか?
────メイヴィスに許されれば、私は自由になれるんだろうか?
ぼんやりとした意識の中、私は漠然とした疑問を抱く。
数えるのが億劫になるほど、何度も死を体験したせいか、私の精神状態は限界を迎えていた。
妬ましいと思っていた相手に、縋るくらいには……。
────でも、神は救いを求めることすら、許してくれなかった。
「────貴方に……貴方なんかにっ!メイヴィスちゃんに縋る権利は、ないわ!ロゼッタ・グラーブ・ジェラルド!」
耳を劈く金切り声に怒鳴りつけられ、私は目を覚ました。
急いで体を起こして、周りを見回すと────黒髪美女が目に入る。
この方は、確か……地獄の管理人の妻であるアイシャ様、だったかしら?
「あれだけの事をしておいて、メイヴィスちゃんに縋ろうだなんて……!!恥を知りなさい!!この雌豚がっ……!!」
私の心を読んでいたのか、アイシャ様は怒りを露わにした。
苛立たしげに眉を顰める彼女は、『憎くて堪らない』といった様子で、こちらを睨みつける。
血のように真っ赤な瞳は怒りを孕み、殺意に満ち溢れていた。
「貴方が全く反省していない事は、よく分かったわ……!これからは、もっと罰を重くするから覚悟なさい!」
こちらを指さして、堂々と宣言したアイシャ様に迷いはない。
確認するまでもなく、本気であることは明白だった。
ま、不味い……!!これ以上、罰を重くされたら、私の心が壊れてしまうわ!
「ま、待ってください!それだけは、どうか……!!」
「お黙りなさい!貴方に発言の許可を与えた覚えはないわ!」
「で、ですがっ……!!」
「舌を引きちぎられたくなかったら、黙りなさい!」
何とか食い下がろうとする私に対し、アイシャ様はピシャリと言い放つ。
そして、近くに居た魔物に指示を出すと、彼女はクルリと身を翻した。
徐々に遠ざかって行く小さな背中を前に、私は『引き止めるべきか』と考える。
でも、『舌を引きちぎる』という脅しが頭から離れず……声を出せなかった。
『嫌だ!やめて!』と叫びたいのに……怖くて何も言えないなんて……私はいつから、こんなに臆病になったのかしら?
惨めな自分に嫌気が差し、私はポロポロと大粒の涙を零す。
でも、残念なことに────誰かの同情を引くことは出来なかった。
番外編も、これにて完結となります。
最後の最後までお付き合いいただき、ありがとうございました┏○ペコッ