表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/112

取り引き

「元聖女メイヴィス!身も心も私に捧げると誓うのなら────この地下牢から、出してやろう!もちろん、公開処刑もなしだ!」


 ……はい?今、なんて……?

私を地下牢から、出す……?しかも、公開処刑もなし……?えっ……?


 予想の斜め上を行く申し出に、私は思わずフリーズする。

混乱する私を他所に、トリスタン王子は己の考え(欲望)を赤裸々に語り始めた。


「こんなに冷たい地下牢に閉じ込められて、怖かっただろう!?でも、もう大丈夫だ!私がお前を助けてやる!私のものになると言うのなら、今すぐにでも出してやろう!そして、王家が管理する別荘地で私と愛を育むのだ!」


「……え?」


「寂しくないよう、きちんと隅々まで愛してやるからな!私は愛情深い人間だ!途中で捨てたりしないと誓おう!さあ、メイヴィス!今こそ、私に身も心も委ねるのだ!」


 そう言って、トリスタン王子は鉄格子の隙間から手を差し伸べた。

傷一つない綺麗な手を前に、私はワナワナと震える。

目の前が真っ赤になる感覚を覚えながら、私は唇を噛み締めた。


 はっ……?私を地下牢に閉じ込めたのは、貴方でしょう……?なのに、『私がお前を助けてやる!』ですって……?

貴方が諸悪の根源なのに、何でヒーロー気取りなの?ついに頭が壊れたのかしら?ここで、その提案を受け入れられると本気で思ってるの?だとしたら、本当におめでたい人ね。


 ドロッとした負の感情に支配される私は、グッと拳を握り締める。

今すぐ殴り掛かりたい衝動を抑えながら、私はトリスタン王子を睨みつけた。


「私の尊厳もハワードの命も奪い去っていった、貴方なんかに────身も心も捧げるつもりはありません!!貴方のものになるくらいなら、死んだ方がマシよ!!」


「な、なんだと……!?」


 まさか断られるとは思っていなかったのか、トリスタン王子は目に見えて動揺を表した。

が、直ぐに正気を取り戻し、反抗的な私の態度に怒りを募らせる。

顔を真っ赤にして怒り狂う彼は、感情の赴くままにガンッと鉄格子を蹴りつけた。


「このっ……!!生意気な女め!!優しくしていれば、つけあがりやがって……!!なら、そのまま死んでしまえ!死刑執行日まで、震えながら待つといい!」


 トリスタン王子は地下牢全体に響き渡る声でそう叫ぶと、来た道を引き返した。

徐々に遠ざかっていく足音を聞き流し、私は肩の力を抜く。


 これが最善の道だったのかは分からない。

でも、好きでもない男に純潔を奪われるなんて……絶対に嫌だった。

純潔を守り抜くための代償が私の命なら、喜んで支払おう。


 生還という淡い希望を自らの手で握り潰した私は、確実に早まった死期に思いを馳せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点]  聖女は処刑あるいは昇天(20歳の誕生日)したら、神様の一員になるのかな?。 [一言]  この国の未来は、隕石や疫病が降り注ぎそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ