世界崩壊
旦那様に手を引かれて、やってきたのは────王都の広場だった。
ふわふわと空中に浮かぶ私達は、業火に包まれた地上を見下ろす。
民衆たちは業火を放たれた当初より、随分と落ち着いており、冷静に状況を見守っていた。
と言っても、不安そうな表情は相変わらずだが……。
まあ、当然よね……先日、『世界を滅ぼす』と宣言されたばかりなのだから。
業火の影響で死なずに済んでも、世界を滅ぼされれば、結果は同じ……。
『多少寿命が延びたに過ぎない』と考える私は、チラリと旦那様に目を向けた。
『本当に世界を滅ぼすつもりなんだろうか』と危惧しつつ、私は眉尻を下げる。
不安げに瞳を揺らす中、旦那様はこちらの考えを見透かしたようにスッと目を細めた。
そして、『心配しないで』とでも言うように微笑むと、彼は手のひらを下に向ける。
そのまま、何かを払い除けるような仕草をすれば────世界中に広がった業火は、フッと消えた。
「それじゃあ、約束通り────罪のない人々の救済を始めようか」
パチンッと指を鳴らした旦那様は、空から黄金の雨を降らせる。
神聖力で作られた雫は民衆たちに触れると、風船のように膨らみ、彼らを包み込んだ。
透明の膜で保護された民衆たちは、オロオロと視線をさまよわせる。
膜から距離を取るように縮こまり、警戒していたものの……自分たちに害はないと判断したのか、ホッと肩の力を抜いた。
あの膜は結界……かしら?でも、一体何故……?
罪のない人々の救済に、何の関係が……?
行動の意図を理解できず、私はコテリと首を傾げる。
次から次へと出てくる疑問点に頭を悩ませる中、旦那様は口元に手を添え、フーッと息を吐いた。
刹那────目の前に広がる風景が……いや、世界が吹き飛ぶ。
まるで、そよ風に拐われた木の葉のように……。
光も、自然も、物も全て空の彼方へ飛んでいき、やがて消え失せた。
残ったのは透明の膜で保護された人々と私達、それから────どこまでも続く暗闇だけ……。
わざわざ、旦那様に『何をしたのか?』なんて、聞かなくても分かる────きっと、世界が消滅したんだわ。