因果応報
「僕はただ、バカ王子の横暴で苦しんだ者達の人生を────本人に追体験させているだけだ。お漏らしは、あくまで副産物。よっぽど、恐ろしい体験をしているんじゃないかな?」
『一体、どれだけの人生を壊してきたんだか……』と呆れる旦那様は、肩を竦める。
因果応報と呼ぶべき復讐内容に、私は苦笑を漏らした、
搾取する側の気持ちしか分からないトリスタン王子に、搾取される側の気持ちを味わわせる、か……。
ある意味、一番辛い罰かもしれないわね。
一方的に大切なものを奪われるのって、本当に辛いから……。
命と貞操を天秤に掛けられた時の光景が甦り、私はそっと目を伏せる。
『あれ程までに屈辱的で、不名誉なことはなかった』と振り返る中、旦那様は黄金の光を放出した。
手のひらから溢れ出す光は実体化を遂げ、やがて剣となる。
「汚物の臭いを我慢してまで、ここに居座る必要はないし────さっさと終わらせてしまおうか」
光の剣を手に持つ旦那様は、冷ややかな目でトリスタン王子を見下ろした。
鉄格子の向こうにいる王子は、悪夢に魘されているのか、汗をびっしょり掻いている。
『うぅぅ……』と唸り声を上げる彼の前で、旦那様はまず、邪魔な鉄格子を切り刻んだ。
神聖力で作った剣というだけあって、切れ味は抜群である。
「全く……本当に穢らわしいな」
牢屋に足を踏み入れた旦那様は、『不潔にも程がある』と吐き捨てた。
むせ返るほどの悪臭に支配される牢屋内は、長年放置された影響で、汚れも蓄積されている。
とてもじゃないが、常人に耐えられる環境ではなかった。
旦那様は嫌そうな顔をしながらも、トリスタン王子に近づき、剣を構える。
そして────一思いに心臓を突き刺した。
「今はこれで勘弁してあげる」
血濡れの剣を手放し、旦那様は即死したトリスタン王子に軽蔑の眼差しを向ける。
ゾッとするほど冷たい横顔に目を剥く中、彼はこちらに向かってニッコリと微笑んだ。
「お待たせ、メイヴィス。それじゃあ、最後の仕上げに行こうか」
『まだやるべき事が残っている』と匂わせ、旦那様はこちらに手を差し伸べる。
促されるまま手を重ねる私は、じんわりと伝わってくる体温に頬を緩めた。
『どれだけ様変わりしても、旦那様は旦那様だ』と確信し、私はゆっくりと歩き出した。