長生き
ガンッと勢いよく背中を強打したロゼッタ様は、あまりの痛みに呻く。
でも、これはほんの始まりに過ぎなかった。
「いやっ……!?ちょっ……!離し……ぁあ!?」
一瞬だけ白目を剥いたロゼッタ様は、何故かビクビクと痙攣する。
『ぁ……あ……』と口端から声にも満たない音を漏らし、皮膚にくい込んだ棘を掴んだ。
でも、上手く体が動かないのか、棘を取り除くことは出来ない……。
目尻からポロリと涙を零すロゼッタ様に、私は困惑した。
ロゼッタ様の身に一体、何が……?
蔓のせいであることは確かだけど、具体的に何をされたかまでは分からないわね……。
「あの、旦那様」
「ん?なんだい?」
「ロゼッタ様に一体、何をしたんですか……?」
控えめに黄金の瞳を見つめ返す私は、思い切って質問を投げ掛けた。
至極当然の疑問をぶつけられた旦那様は、特に驚いた様子もなく、ニッコリと微笑む。
「ん〜……そうだね。簡単に言うと────あの女の生命力を少しずつ吸い上げているんだ。神聖力で作り上げた蔓と棘を通してね」
『血を吸われているようなものだから、相当苦しい筈だよ』と語り、旦那様はスッと目を細めた。
彼の視線の先には、苦しみもがくロゼッタ様の姿があり、悲惨な末路を予感させる。
『少しずつ』ということは、そう簡単には死ねないでしょうね……ゆっくり、じわじわと追い詰められていく筈よ。
『火あぶりの刑に処された時の私みたいに……』と零し、私は一つ息を吐く。
なんとも言えない気持ちで復讐を見守る中、旦那様はロゼッタ様を嘲笑った。
「君のお望み通り、長生きさせてあげるんだから、感謝してね────まあ、生還させるつもりは全くないけど」
『死ぬのは決定事項だ』と暗に告げると、旦那様は後ろを振り返る。
「それじゃあ、僕達はもう行くよ。まだバカ王子の処分が残っているし」
悶え苦しむロゼッタ様には目もくれず、淡々とした口調で別れを告げた。
言外に『一人で寂しく死ね』と宣告した旦那様は、私の腰を抱き寄せたまま踵を返す。
そうなると、私も来た道を引き返すことになる訳で……促されるまま、歩き出した。