侮辱
「ロゼッタ様に一つお聞きしたいことがあります。何故────私から、聖女の座を奪ったのですか?」
濁ったエメラルドの瞳を見つめながら、私は動機について尋ねた。
ロゼッタ様がトリスタン王子と共に、私を断罪したときから、ずっと疑問だった。
何故、彼女はそうまでして聖女の座を欲したのか?と……。
最初はトリスタン王子の婚約者になるため、邪魔だった私を排除したのかと思ったけど……それだと、辻褄が合わない。
だって、ロゼッタ様がわざわざ動かなくてもトリスタン王子の思惑通りになることは、絶対に有り得ないから。
「聖女は確かに魅力的な地位ですが、好きに使えるお金も権力もありません。聖女なんて、教会のお飾りに過ぎませんから……なのに、何故聖女の地位を欲したのですか?貴方なら、もっと高い地位に就くことも出来たでしょう?」
魔法の才能と優れた容姿、そして────公爵令嬢という身分……。
生まれながらにして、全てを手に入れたと言っても過言ではない祝福を受けながら、一体何故聖女に拘ったの……?
様々な疑問に頭を悩ませる私は、コテリと首を傾げる。
困惑気味にロゼッタ様の反応を窺うと、彼女はバツの悪そうな顔で俯いた。
「……特に深い意味はないわ。ただ────優秀な私より、チヤホヤされる貴方が気に食わなかっただけよ」
「!?」
予想の斜め上を行く回答に、私は言葉を失った。
これでもかというほど目を見開き、呆然と立ち尽くす。
虚無感にも似た感覚に襲われる私は、なかなか現実を受け入れられなかった。
気に食わなかった、か……。
たったそれだけの理由で、私とハワードは殺されたのね……。
なんて非道で、理不尽で、身勝手な理由なのかしら……?
ショックのあまり怒ることさえ出来ない私は、『はぁ……』と深い溜め息を零す。
自分達の人生を踏みにじられたような感覚に襲われ、脱力してしまった。
『酷い侮辱ね』と嘆く中、旦那様は私の腰をそっと抱き寄せる。
まるで、一人じゃないとでも言うように……。
「────ロゼッタ・グラーブ・ジェラルド、君のくだらない感情で世界を混沌に陥れた責任は、きちんと取ってもらうよ。覚悟はいいね?」