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悪魔のテディベア

作者: 谷まどか

 「熊のぬいぐるみであるテディベアはドイツのシュタイフ社、創業者のマルガレーテが甥のために作った熊のぬいぐるみがきっかけだと言われています。マルガリーテは動物のスケッチを数々描き、1902年には「本物のようなクマのぬいぐるみ」を思いつき、腕と脚を動かせる毛足の長いモヘアで作られたクマのぬいぐるみを設計したそうです。これが世界で最初のテディベアと呼ばれる「55PB」の復刻版です。その後、ぬいぐるみはアメリカ人バイヤーの目にとまり、アメリカ国内で販売されるようになります。シュタイフ社のベアは、ルーズベルト大統領の晩餐会のテーブルディスプレイに使われ、セオドア・ルーズベルト大統領のニックネーム「セオドア=テディ」にちなんで、クマのぬいぐるみは「テディベア」と呼ばれるようになり、一大ブームを巻き起こしました」

博物館の学芸員がたくさんディスプレイされたぬいぐるみを前にそう説明した。ここは千羽市の市立博物館だ。学芸員が説明したエリアはおもちゃの歴史コーナーで、世界各国の有名なおもちゃが展示されていた。その中のテディベアの説明を学芸員はしたのだった。

 光とゆうが列から離れて博物館の廊下のベンチに腰掛けた。今日は花園小学校の校外学習の日だった。

「光、博物館楽しいよね、わくわくする」

「ゆう、きょろきょろしすぎだぞ」

2人は水筒の水を口にしてすぐ列に戻る。そして、一通り館内を回り「見学メモ」と呼ばれる子供たちに配布された、感想や見どころなどをまとめるためのメモには子供たち皆が思い思いに感じた事を書き、その後集合と人数確認があり、担任の田中先生がバスに乗るように皆を誘導した。

「皆さん、行きのバスの時の隣同士だった人とペアになって順番にバスに乗ってくださーい!」

光とゆうは手をつなぎバスに乗り込む。2人は幼なじみで、幼稚園、それに小学校も同じ、クラスも同じ、というなかよしの男の子と女の子だ。バスが出発した。

 博物館は千羽市の小高い山になっているエリアにあった。美術館や高校、大学などが多く建つ場所だった。バスは駐車場を出て右折し、長い下り坂をゆっくりと下る。信号が赤となりバスが止まったその時

「きゃーっ」

誰かが叫んだ。すると田中先生が大きなテディベアに後ろから羽交い締めにされナイフを顎先に当てられていた。皆一瞬何が起こったか分からず呆気に取られたが、

「黙れ」

大きなテディベアが野太い声で叫んだ。

「おまえらの」

「バスは俺がジャックした。俺は悪魔。あ、くま。これは駄洒落だ」

田中先生が声をかける。

「落ち着いてください。私は教師です、この子たちを守る義務があります」

テディベアの手元が少し緩んだ。

「何が要求なんですか?」

田中先生は続けた。

「俺はあの博物館に飾られたテディベアから魂だけ抜け出して適当な熊のぬいぐるみに乗り移った。「あ・くま」だ、俺は山に帰りたい、帰って冬眠したいんだ」

皆、怖がり怯えていたが、光とゆうだけは違った。

「あの「あ・くま」さん、落ち着いてください。要求するのにナイフは必要ありません」

光が言った。

「山に帰りたいならここから近いところに良い山がある。「あ・くま」さんの好きな樫の木もあるし、どんぐりには困りません。「あ・くま」さんどうでしょう。」

ゆうが続ける。

「今まで、外に出る機会をずっとうかがっていた。俺は山に帰りたい、連れて行ってくれ」

 光はバスの運転手に向かって

「運転手さん、すみません。近くの空飛山に向かってもらえませんか?「あ・くま」さんを送りに」

「ええ、そうですよね、送っていきましょう」

運転手がそう話し、バスは空飛び山に向かう。

「私がね小さい頃、祖母に聞いたんですけど」

運転手が口を開く。

「なんでも、またぎから祖母が聞いたそうなんですが」

「ある時、熊を鉄砲で仕留めたそうです。家族の熊で、お父さんの方かな。倒れた時に空になにか金色に光り輝くものが昇り上がったそうですよ」

運転手はそう言って続けた

「だから家族の熊は打つな、そんなふうにまたぎ仲間に語り継がれているみたいですよ、その後お父さん熊を打ったまたぎは谷底に転落して亡くなったそうなんですよ」

子供たちがみんなで鼻を啜り《すすり》泣いた。バスは夕暮れに染まり始めきれいな空になってきた。「あ・くま」はでかいぬいぐるみのくせに、いびきをかいて眠っていた。

 空飛び山に着いた。日は沈んでいた。光とゆうは山の麓の樫の木の前に「あ・くま」を運び横たえた。

「あのぉ「あ・くま」さん、君、全然悪魔じゃなかった、山に帰りたかったんだよね、これからはゆっくり眠ってね」

すると、バスの運転手が話した通り、熊のぬいぐるみから金色の何かが立ち上り、空に熊の家族が映し出された。まるで映画のスクリーンみたいに。熊たち親子は、美味しそうにご飯を食べると、ああ幸せだぁというような顔で眠りについた。

 田中先生がみんなを集め、点呼してバスにみんなを乗せた。

そしてバスは小学校に向かった。光とゆうは椅子に座ると同時に

「悪魔じゃないよね」

「うん」

と言って、その後同時に

「天使!」

と声を揃えた。そしてふたりとも無性に家に早く帰り、両親に思い切りハグをしたくなった。バスは星空の下を駆け抜けた。

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