氷の祝福
最近咳き込みます。熱は無いんですけどね...
「暇だ...なんで部外者が入ってこないかの見張りを俺たちがしないといけないんだ。俺だって粛清したい!」
「しょうがねぇだろ、俺たちは下っ端なんだし」
裏路地に騎士が2名。
奥に見せたくないものでもあるのだろう、見張りをしているようだ。
「ん?誰か来たぞ」
「おい、通行人。すまないが、今は立ち入り禁止なんだ。ご迷惑とは思うが、遠回りしてくれ」
通行人は止まるどころか、勢いをまして突っ込んできた。
「止まれと言っているんだ!」
「待った、あいつらアムネシアの手下じゃないのか?」
「そういう事か!この先は通さん!」
「おりゃ!!」
「ぐはっ!」
私は思いっきり騎士の顔面を蹴りあげた。
もう1人は黒猫さんがいつの間にか拘束していた。
「この2人は後で回収班を回しておきます。先を急ぎましょう」
こんな狭くて、地元の人すら知らないような道にまで警備を置くとは、よほど見せたくないことでもあるのだろうか。
裏路地を抜けると、大きな通りに出た。
そこは戦場だった。
いや、戦場なんかじゃない。殺戮だ。
街は燃え、死体は道に投げ捨てられ、騎士が街の人を一方的に斬り殺していた。
「何よこれ...」
「騎士団が守るべき民に剣を向けるとは...」
1人の騎士がこちらへやってきた。
「なんだ、お前達は。ここは立ち入り禁止だったはずだぞ?お前達は粛清対象外だ。しかし、見られたからにはしょうがない。お前らも死ねぇ!」
黒猫さんは目にも留まらぬ速さで騎士を綱でぐるぐる巻きにした。
なんて早業、私ですらも見逃してしまったよ。
「スターチスさん、これを使ってください」
「これは...棍棒?」
「頭を1発でも叩けば無力化でき、簡単に人は殺せない。ここはいつ襲われてもおかしくないので、護身用に持っておいてください」
「わかったわ」
周りの騎士達が、こっちに注目してきた。
さっきまで一方的だったのに、仲間が捕まったんだ。先に面倒なのを大人数で倒そうとしたのだろう。
「ここにいたか!」
それは女性の声。何度か聞いたことのある声。
ユリだ。
「まさか私がその場にいたにもかかわらず、逃げられるとは。私ももっと精進せねばな」
「お前を止めるために、残しておいた彼はどこですか?」
彼とは、多分私を助けに来てくれた時に一緒にいた猫のことだろう。
「あ〜、あの猫の亜人ね。死んではないから安心しなさい。それと、あの亜人は言葉一つ喋らなかったけど、貴方は話せるようね。1つ聞きたいことがあるんだけど」
黒猫さんは答える義理はないが聞くだけ聞く、と言う姿勢だ。
「『斜め77度の並びで泣く泣く嘶くナナハン7台難なく並べて長眺め』と言いなさい」
「...?なぜ、そのような言葉を言わなければならないのです?」
「な?!『にゃぜ』...じゃないだと...」
どうやら、『な』を『にゃ』と言うと思っていた様だ。口が人の形になったんだ。口癖ならまだしも、素で『にゃ』なんて言うことはまず無いだろう。
「はぁ、結果は予想外だったが、これからやることに変更はない。捕まえろ。相手は邪魔者だが、殺しは極力避けろ」
ユリは周りの部下に命令した。
「「「はっ!」」」
私たち2人に何十人もの騎士が押し寄せてきた。
見ただけでも20人以上。
30、40人いるかもしれない。
私は棍棒で近くにいる騎士を殴っていた。
大体1発で気絶するが、かわされたり、受け止められたり、一筋縄ではいかない。
ユリは部下が手こずっているのを見てか、いつぞやの氷剣を取り出し、振りかざした。
「スターチスさん危ない!」
黒猫さんは私を庇った。
そして足が凍った。
ご丁寧に両足を固定する様に凍っている。
「確保ー!!」
黒猫さんは5人ほどの騎士に地面に押しつぶされるかのように拘束された。
「これで1人だけになったぞ?今投降するなら私が刑を軽くしてやろう」
「断る」
「そうか...なら、全員、突撃!」
四方八方から騎士が押し寄せて来る。
「万事休すか...」
「凍れ!」
そして、私はこの時初めて本物の祝福をみた。
剣に付与された半端なものなんかじゃない。
氷の精霊と呼ばれる、スノウ族の本気の祝福だ。
辺りが雪景色になった。
何十人といた騎士が全員氷漬けになり、街の火事は消え、棍棒を振り回して疲れきった私の体を芯から冷やした。
「回収班の猫達に案内された道を来てみれば、大人数で子供2人を相手するとは。騎士道の欠けらも無い奴らだ」
私の前に現れたのは、ソメイさんだった。
「大丈夫か?スターチスさん」
「は、はい。でも、私一様大人ですよ?」
「そう?まともな大人ならこんなところに2人では来ないと思うけどね」
そういうソメイさんは1人で来ているようだが。
「私は別さ、この景色を見れば一目瞭然だろ?」
あんなにいた騎士を一瞬で無力化できるなら1人でも大丈夫なのは嫌でも理解出来る。
「貴様...もしやスノウ族か?なぜここに...?」
ユリはさっきよりも、もっと驚いた表情だった。
次回は「正義」の予定です。




