王宮の真ん中で婚約破棄を告げられ辺境の地へ追放されました。
「マリー、当然わかっているよね? 君との婚約は無かったことにしよう」
バビロニア国四男カールは冷たく言い放った。
周囲からはクスクスと笑う声が聞こえる。
王宮内には城内重役から護衛兵であふれている。
そして、王宮の玉座に鎮座するバビロニア王と王妃は私の事を冷たい目で見ている。
「カール様! 違うんです!」
私がカールに近づこうとした時、目の前に4本の剣先が突き出された。
王直属の四銃士。
あと一歩でも動こうとすれば4本の剣は私の身体を一瞬にして貫くだろう。
「失礼だぞ! 剣をおさめよ」
(アゼル!)
四銃士を越える剣技の持ち主。
カール近衛兵隊長。
私を守るように4本の剣の前に立ちはだかった。
「マリー様も後ろへお下がりください」
アゼルはそう言うとカールの側へと戻った。
「まったく野蛮なものだねぇ」
カールは薄ら笑いを浮かべながら私を見ている。
侵略された属国の姫であった私は強制的にこの国の四男カールの婚約者とされた。
実際は婚約者とは名ばかりで城内の雑用をこなす毎日だったのだけど。
「あーら、まだやってたのですか?」
王宮へ甲高い声を響かせ遅れて入ってきたのはイライザだ。
イライザはカールへ腕を絡めると胸をおしつけ二人はイチャつきはじめた。
その振る舞いは私からカールを奪いとり勝利を祝うようだ。
「このかわいいイライザを落とし入れるなんて、マリーお前はとんでも無い奴だよ」
カールはイライザの頭を撫でながら私へ言葉を吐き捨てた。
「カールさまぁ。許してあげましょうよぉ。
あたしの指輪を盗んだことは気にしてないからぁ」
イライザはカールに甘えるように言った。
違う。
私は指輪を盗んでなんていない。
気づいたら私がいつも使っている掃除道具に入っていただけなのだ。
「偶然、掃除道具に入ってただけでしょう?
おおめに見て死罪ではなくルルド辺境地への追放で許してあげましょうよぉ」
え!?
なんで掃除道具に入ってたと知ってるの?
掃除道具に入ってた事は私だけしか知らない。
私はカールに指輪がありましたと告げただけで場所は教えていない。
「カール様!」
私はカールに弁明しようと声をあげた。
「お、おう! そうだ! ルルド辺境地へ追放だ!」
カールは焦ったように私の言葉をさえぎった。
あきらかに焦っている表情。
カールはイライザの失言に気づいている。
もしかしてカールとイライザが私に罪を!?
「わかりました。今すぐに城を出てルルド辺境地へと向かいます」
ルルド辺境地は草木も生えない砂漠地帯。
私に死ねと言っているようなもの。
これじゃあ死罪の方がマシだ。
少しでもカールの役に立てるように毎日城内の仕事を必死でこなしてきた。
それなのにこの仕打。
もう反抗する気もなくなってしまった……。
「あ~ら。いさぎよいわね」
全てがうまくいったと言わんばかりにイライザが高笑いした。
すかさずカールが声高に叫んだ。
「ルルド辺境地に女性1人とは危険がともなう。このカール様の兵士を1人だけ貸してあげよう」
カールの護衛兵士。
兵士長であるアゼルはともかく他の兵隊は……。
30人ほどが王宮の端に居るけど、とても兵隊とは思えない集団。
バイキングか山賊を思わせる容貌。
「へっへっへ。オレにまかせろ。おいしそうな姫様だぜ」
「おいおい、何を言ってるんだ。オレのもんだ」
「うほぉ~。いいケツしてんぜ」
護衛兵士の集団は口々に私をなめまわすように見て下品な言葉を発している。
「あ~ら、マリーさんと2人っきりの旅。大人気ですね」
イライザは高笑いした。
私を襲わせる気なんだ。
護衛兵士の集団は今にも襲いかかってきそうな野犬の群れのように吠え叫んでいる。
これなら本当に絞首刑なり死罪の方がよっぽど楽かもしれない……。
バビロニア国王と王妃は何も言わずただ黙って見ている。
「さあ、もう時間だ! このカール様が指名しよう!」
カールは私をさっさと追い出さんとばかりに急き立てた。
「うひょおおお。我慢できねええええ」
「オレにやらせろおおお!!!」
「オウッ! オウ! オウッ! オウオウ!」
護衛兵士の集団はヨダレをたらしジリジリと近寄ってくる。
王宮内の人々は汚いものを見るように私と護衛兵士達を何も言わず眺めている。
王宮内に護衛兵士の唸り声とにじりよる足音だけが響く。
「僕が行きましょう!」
その時、あたりに大きな声が響いた。
王宮内の全員が声をした方向を見て驚いている。
そう声の主はアゼルだ!
カールが慌てふためく。
「な、な、な、なんで! お前が! ダメに決まってるじゃないか!」
「僕も護衛隊の一員ですから、しかも隊長なのでね」
「隊長だからダメに決まってるじゃないかぁ!」
「護衛兵士の権限は僕に全て委ねられています。それでは」
そう言うとアゼルは私の手を取り王宮の出口へ向かった。
「ま、ま、待ちなさい! 四銃士! 止めなさい!」
イライザが叫んだ。
叫び声が響いた刹那。
目の前に四銃士が立ちふさがった。
そして四銃士のうちの1人、ジャン様が口をひらいた。
「アゼル様、マリー様、後のことは我々におまかせください。うまくおさめておきます」
「え!? どうして? 四銃士のみなさんはアゼルが恩師だとしても私はただの従者のようなもの、今や追放の身です」
「マリー様、我々四銃士はあなたの日々のお仕事に助けられました。
城内の清掃から健康的な食事。
あなたが城へ来てからずっと快適な環境を維持されていました。
感謝しています」
ジャン様は深々と頭を下げた。
「そ、そんな、こちらこそありがとうございます」
ジャン様は頭をあげると笑顔で挨拶した。
「それではお急ぎください」
「ありがとう。ジャン。それじゃあ行こうマリー」
王宮内からはアゼルと私を止める声でざわついている。
「はやくあいつらを止めなさい!」悲痛でヒステリックなイライザの声はひときわ大きく響いた。
何も聞こえないかのようにアゼルは私の手を引っ張って歩みを進めた。
◇◇◇
「ここまでで大丈夫。今から戻ればアゼルなら許してもらえるわ」
私は追放された身。
けど、アゼルは王宮内での重要な役割があるし何よりバビロニア王国な貴重な戦力だ。
国王様もカール様も戻ってきて欲しいと思っているに違いない。
「僕も辺境の地で、また1からやり直そうと思ってるんだ」
「え!? どうして!?」
「イライザの指輪をマリー様が盗んだなんてありえない。
いや、これまでだって不当な政治や裁判がいくつも行われていた。
僕はみんなが平等で楽しく過ごせる場所を作りたいんだ」
「そんな大きな目的があったなんて」
「そう。そしてこの目的のために必要なのはマリー様の力なんだ」
◇◇◇
寝室でイライザがカールに当たり散らしている。
「くそおおお! なんなのよ! せっかくアタシがわざわざ指輪が盗まれた演技までして追い出したのに
なんでアゼルがついてゆくのよ!」
イライザはまわりの物にあたり散らし食器や置物が次々と壊れてゆく。
「イ、イライザ、落ち着いてよぉ!」
カールはあわてふためくだけで何も出来ない。
この日、一晩中カールはイライザをなだめることとなった。
この後、マリーがいなくなり城ひいてはバビロニア国は衰退の道をたどることになる。
そして、マリーとアゼルによる辺境の地の開拓により新たな国家が誕生するのは、そう遠くない未来の出来事である。
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