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鳴かぬなら 信長転生記  作者: 大橋むつお
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94『皆虎の新興屋敷街』

鳴かぬなら 信長転生記


94『皆虎の新興屋敷街』織部 





 信長の潜入調査では、皆虎の街は寂びれた軍都で、かつて扶桑国侵攻の最前線だったころの面影はない。


 土塁や城壁も満足なものは少なく、僅かな観光収入とささやかな定期市の上りで城塞都市の面目を保っていた。




 それが、曹茶姫の騎兵軍団が皆虎を起点として扶桑との国境地帯を東西に打通して以来、急速に往年の賑わいを取り戻しつつある。


 詰まった血管に血が通うように、人や物の流通が盛んになり、ささやかな定期市は常設の商業地帯に変貌しつつある。


 変貌は商業地帯だけではなく、その周囲に富豪や豪族の別宅、別荘が建ち始めている。


 市の広場で声を掛けてきた女は、わたしたちを、その中でも一二の規模の新築に誘った。




「ここは、呉の孫権さまのご別宅。お妃さまがお出ましになられますので、どうぞ、こちらの庭の亭でお待ちになってください」


 案内を小女に任せると、女は奥の屋敷に入っていった。


 小女に誘われて亭に着くと、相棒の本性が出てしまう。


「備えができていない」


 リュドミラは愛想が無い。


「備えとは防備の事ね」


「ああ、起伏が大きく植栽が多すぎる。亭や庭石も侵入者が姿を隠すために置かれているようなもんだ」


「リュドミラはどこまでいっても、ものを見る目が物騒だわよ」


「スナイパーだからな」


「自分を狭く定義づけしないほうがいいわよ、あんたの身体能力はダンサーにも向いているし」


「あれは、ただのお遊びだ。子どもの頃、村のお祭りに出たいばかりに憶えたお祭りのステップ」


「そうかしら、わたし、むしろそっちの方が向いているような気がしてきた」


「フン」


「鼻で笑わないでくれる、これでも、審美眼じゃ扶桑一の古田織部なんだからね」


「癖だ、気にするな。それよりも織部、完全に女になってないか? 言葉とか、完璧女言葉だし」


「ここは三国志よ、女商人の設定だし、審美眼的にも、こうでなきゃおさまりが悪い」


「そうか」


「リュドミラこそ、これから会うのは、ここの主筋の人だろうし、気を付けてね」


「気には留めるが、あいにくの不調法だ、そっちでフォローしてくれ」


「うう……どっちがガードなんだか」


「あ、来たぞ」




 屋敷の方から、小女を従えて女主人めいた奴が庭木の向こうからやってきた。




「どうもお待たせしました。この館の主、大橋紅茶妃さまでございます」


 小女が紹介したのは、楊貴妃の姉妹と言われても頷いてしまいそうな美女だ。


「大橋紅茶妃と大層な名乗りですけども、あなた方とはお友だち付き合いでいこうと思いますので、コウチャンと呼んでいくださいましな」


「え、そのお声は?」


「さっきの宮仕え風?」


「オホン、先ほどまでは外出用にメイクをされていたのです」


「これ、誇るようなことではありません」


「これは、古田織部、一生の不覚でした!」


「反則的なイメチェンだ……」


「いえ、いまの大橋さまは、ほとんどスッピンでいらっしゃいます(*`ω´*)」


「これこれ」


 グヌヌ……安全のためなのだろうけど、あえてブス、いや、先ほどまでの宮仕え風でも、あっぱれ一級品の美人だったけど、それが変相であったとは……古田織部、ますますの審美眼修業をしなければと自戒するのであった。




☆彡 主な登場人物


織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)

熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま

織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)

平手 美姫       信長のクラス担任

武田 信玄       同級生

上杉 謙信       同級生

古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ

宮本 武蔵       孤高の剣聖

二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま

リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ

今川 義元       学院生徒会長

坂本 乙女       学園生徒会長

曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹

諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相

大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん

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