93『リュドミラの胡旋舞』
鳴かぬなら 信長転生記
93『リュドミラの胡旋舞』織部
似て非なるものだ!
怒っているのかと思った。
広場の胡旋女たちを目に止めると、リュドミラは吐き捨てるように言った。
「コサックダンスはもっと激しい! もっと速い! もっとカッコいい!」
「あんまり大きな声で言うな、ここは三国志なんだよ」
「これは、カザフスタンやタジキスタンの温い踊りだ!」
「そ、そんな怒ることはないだろ」
「怒ってるんじゃない、血が騒いでいるんだ!」
「そ、そうなのか(^_^;)?」
返事の代わりにリュドミラはリズムを取り出した。
「……タンタタ タンタタ タンタタ タンタタ……うん、リズムはいっしょだ……タンタタ! タンタタ! タンタタ! タンタタ!!」
そして、ごく自然に胡旋女たちの中に入って行くと、胡旋女たちの倍以上に激しく大きく踊り出した!
胡旋女たちが一回転する間に、リュドミラは二回転する。
そして五回に一回は高く大きくジャンプして空中で数回転して着地し、次には体を斜めに旋回させ、まるでベーゴマの親分がヘボのベーゴマを弾き飛ばすように胡旋女たちを駆逐して、広場を独壇場にしてしまった。
胡旋女たちも、それを不快に感じたり萎縮したりすることなく、手を叩いてリズムをとり、自然にリュドミラのバックダンサーになっていった。
楽団のおっさんたちも、曲を自然に激しいものに変えていく。それまでニ三重だった観客は、その外側に一重二重と増えていき、広場を埋め尽くしそうな勢いになってきた。
それにつれ、リュドミラのダンスは、さらに激しく大きくなり、前転、バク転、二回宙返りの前転、バク転、さらには体を大の字に開いて、そのまま跳躍して、空中で大の字のまま手足の先をタッチさせるという素人目にも男のダンスだろうというものまで披露する。
旋回の大きさ激しさ、跳躍の高さ、まるで、窯の中で茶碗を焼く炎の精が顕現したようだ。
パチパチパチパチパチパチ! ブラボー! パチパチパチパチパチパチ! ブラボー! ブラボー!
賞賛の嵐になってしまった!
「これはコサックダンスだな!」
ドラムをたたいていたオヤジが頬っぺたを真っ赤かにして寄ってきた。
「いやあ、親方から噂には聞いていたがな、なんせカスピ海の向こうだ。漢人のまがい物は見たことがあるが本物は初めてだ! 明日から、いや、これからでも俺たちといっしょにやってみないか!?」
「え、ええ、わ、わたしが!?」
「いきなり倍のギャラは出せないが、なあに、あんたの腕なら、すぐに投げ銭は倍になるだろ。そうしたら、このくらいは出してやる。衣装も用意しておく、明日から来てくれ!」
オヤジは袖の下で相場の三倍ほどの金額を提示した。
「え、あ、ええと……(#◎o◎#)」
その場の勢いで、つい本気になってしまったが、終わってしまうと元の無口な女兵士。俯いてワタワタするばかりだ。
「その胡旋舞、楽団ごと雇います」
いつの間にか江南の宮仕えという感じの女が寄って来ていて、笑顔で話しを持ちかけてきた。
扇の下で示している金額はオヤジの五割り増しだった!
☆彡 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹(三国志ではシイ)
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん




