70『卯盃の城門』
鳴かぬなら 信長転生記
70『卯盃の城門』市
サル(秀吉)に似ていると思った。
見かけじゃないわよ、曹茶姫はわたしの次くらいの美人よ。
もし、ミス転生コンテストとかがあったら、茶姫は間違いなくミス三国志。わたしはミス扶桑よ。
そして、三国志・扶桑の決勝戦で、あの子は一票差ぐらいで準ミス転生。
「貴女もなかなかだったわ、もし、審査基準に権謀術数とかがあったら、わたしに勝ち目はなかったかも」
と讃えてあげる。
そうなのよ、豊盃で出会って以来、茶姫には意表を突かれてばかり。
皆虎の街では北進すると見せかけて皆虎門を開けさせ、でもそれは北伐の故事に倣ったパレードをやるため。隊列整え新品の軍装で懐古の町を行進させ、これはこのまま景気づけのセレモニーで終わるのかと思ったら、まさかのUターン。閉ざされていた出征門を爆破すると大見え切って同時に北進。輜重もなしに、このバカ、扶桑に攻め込むつもり!? だったら、もう茶姫の近衛なんかやってられない! で、横を見たら兄貴はニヤニヤ笑ってるし。
一時は、信長と、その妹のわたしを取り込んで……実は人質にして扶桑の国(転生の美称)を攻めるのかと思ったもの。
くそ、なんなのよ、兄貴といい茶姫といい、いい加減にしてよね(≧0≦)
扶桑に踏み込んだら、今度は緩衝地帯の森を出たり入ったりして西に走る。輜重は検品長の荷馬車があるきりで、三国志にしろ扶桑にしろよそを攻められる編成じゃない。
じゃあないんだけど!
昔、源義経が輜重とか補給とか完全に無視して一の谷と屋島で平家をぶちのめした。クソ兄貴は、輜重どころか、身一つで清須城を飛び出して間に合った兵だけ連れて桶狭間で今川義元をぶち殺した。
そういうメチャクチャやりながら、戦略目的フルコンプってやついるからね!
だから、判断できなくて、もうイライラは頭のてっぺんまで来てたわよ!
「イラついてんのは、お前だけじゃない。俺と茶姫以外は、みんなイラついてる」
「え?」
「皆虎じゃ、町の者に混じって、あっちこっちの諜者どもが右往左往していた。曹素までいたのには笑ってしまったがな」
「え、ええ?」
「なんだ気づいていなかったのか?」
「き、気づいてたわよ、もちろん。ほ、ほら、他の兵たちも黙々と付いて走ってるじゃない!」
「兵どもは、信仰しているんだ茶姫を。理解した上での信頼ではない。将たるものは信仰で戦はせん」
なんか憎たらしい。
「右往左往させれば、そこから迷いが生じる。迷えば、ほころびが出る。茶姫は、そうやって道を開いているのさ」
「そ、そうよね」
「ほら、向こうの丘にも分かっているやつが居る」
「あ?」
丘の上に信信コンビ(信玄・謙信)と武蔵が望遠鏡でこっち見ている。
斥候なんだろうから、もっと身を隠しなさいよって思うんだけど、堂々と身を晒して、それがまた――俺たちは分かってる――というオーラを発してる。
「これで、茶姫は扶桑を攻めないし、扶桑も三国志を攻めない。一兵も損ずることなくことが済んだ」
「そ、そうよね」
「尖がってないで、あっちを見ろ。あれは卯盃の城門だ」
「ボウハイ?」
「卯の盃と書く。三国志、西の果てだ」
「あそこに入るの?」
「ああ、三国志と扶桑の境を一気に駆け抜けて、敵味方に存在感を誇示して……さて、茶姫は、この先をどうするつもりだぁ?」
「ちょっと、ニヤニヤしないでよね」
「見ろ、城門を」
「え……うさ耳!?」
なんと、接近するにつれて、城門の屋根に大きなうさ耳が立ち上がってきた。
☆ 主な登場人物
織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生
熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
織田 市 信長の妹
平手 美姫 信長のクラス担任
武田 信玄 同級生
上杉 謙信 同級生
古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
宮本 武蔵 孤高の剣聖
二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
今川 義元 学院生徒会長
坂本 乙女 学園生徒会長
曹茶姫 魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)




