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鳴かぬなら 信長転生記  作者: 大橋むつお
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7『初登校』 

鳴かぬなら 信長転生記


7『初登校』   





 担任の平手です。



 そう名乗られて、爺の生まれかわりかと思った。


「あ、平手正秀の生まれ変わりじゃないからね」


「え、そうなんですか?」


 敬語を使っている自分に驚く。


「全部が全部生まれかわりってわけでもないの。きみの事は織田君って呼ぶけどいいわよね?」


「はい、先生と生徒ですから」


 初めてだ、人のことを先生なんて呼んだのは。


「これから、いっしょに教室に行きます。朝のショートホームルームだから、簡単に自己紹介してもらって、すぐに一時間目の授業。学校の色々は、このファイルを読んでくれたらいいわ。じゃ、まずは屋上に行くわよ」


「屋上?」


 意表を突かれて声になる。転校初日の朝に行くところが屋上だとはな。



 ガチャリ



 ドアが開くと、爽やかな風が吹き込んでくる。


 この街の空気は悪くないが、屋上の空気は、地上よりも、いっそう清々しい。


 ちょっとしたデジャブだ。


 斎藤竜興を破って、初めて稲葉山の天守に登った時、この頬に感じた風に似ている。


 あの時は、速攻で『岐阜』という地名が浮かんで、その日のうちに改称を命じた。


「岐阜に似ているって思ったんでしょ」


「分かりますか?」


「たいていね、生徒の考えることは分かる。担任だからね」


「…………」


「こういう時、織田君は無口になるんだ」


「無駄なことは言いません」


「あそこの山ね……」


 先生が指差す先には、小さな山があって、南に伸びた道の先には鳥居が立っている。


「鳥居は立っているけど神社があるわけじゃないの。山全体が御神体でね、そのしるしに立っている」


 よく見ると、木々の合間に石垣や白壁が見える。


 そうか、この扶桑に来て最初に降り立ったところだ。敦子が言ってた御山だ。


 ついこないだの事なのに、ずいぶん昔の事のようにも思える。


「御祭神はなんですか?」


「ただの山。住民は、尊崇の気持ちを込めて『御山』って呼んでる。あの御山の木々が街の空気を清浄にしてくれているの。街の空気はゆっくりと御山に集まって、御神木によって浄化されて、こういうふうに還流してる。特に立ち入り禁止にはしていないから、スッキリしたいときには来てみるといい。街の様子もよく分かるしね。いちおう説明しておくわね……」


 先生は、街と学校の主だったところを解説してくれる。


 放課後、通学路付近だけは見ておこうと思っていたので助かった。


「さて、そろそろ教室にいこうか」


「はい」



 階段を二階分下りたところが二年生のフロアーだ。



「みんな、お早う。今朝は、まず転校生を紹介するところからね。入ってちょうだい」


 軽く礼をして教室に入る。


 女子高だからクラスの全員が女子。


 しかし、有名無名混じり合って、みんな戦国武将や侍の生まれ変わりだ。


 油断がならない……と、思ったら、教壇に立って受けるオーラは、普通の女子高生のそれだ。


 ちょっと拍子抜けではある。


「じゃ、簡単に自己紹介してちょうだい」


「今日から世話になる、織田信長だ。よろしくな」


 え、それだけ?


 そんな空気が一瞬あったが、すぐに過不足のない拍手が返って来る。


 パチパチパチパチ


「では、席は、窓際の後ろから二番目。黒板の上に座席表貼ってあるから、少しずつ覚えて、仲良くやってね」


 首をひねって見上げると、スピーカーの横に座席表が貼ってある。


 前を向いていれば自然にクラスの者の名前を憶えられる仕組みだ。


 自分の席……ちょっと驚いた。


 後ろが武田信玄、前が上杉謙信だぞ……。




☆ 主な登場人物


 織田 信長       本能寺の変で打ち取られて転生してきた

 熱田大神        信長担当の尾張の神さま

 織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)

 平手 美姫       信長のクラス担任

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