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鳴かぬなら 信長転生記  作者: 大橋むつお
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68『吶喊!』

鳴かぬなら 信長転生記


68『吶喊!』信長   





 懐古の町へは西北の乾門から入った。


 乾門というのは通称だ。羅城(町を取り巻く城壁)の西北部分の破れが修理もされないままに豊盃からの近道として使われている。老兵の軍服のほつれのようで、一時は、そのままに破れとか破門やぶれもんと呼ばれていたが、みすぼらしく、いかにも三国志の隆盛から取り残され破門はもんされたようなので、懐古の住民が板切れに『乾門』と書いて打ち付けてある。



 我々は、この乾門から入った後、町の南北を縦貫するようにパレードして、その足で南に向かい、魏の洛陽、呉の建業、蜀の成都を掠めるように駆け抜けて威容を示そうとしているのだ。


 何度も言うが、茶姫の騎兵軍団は輜重を伴っていない。


 追随しているのは、自発的に最後尾に着いてきた検品長の小隊規模の輜重だけだ。


 近代装備で言えば、戦車部隊が燃料や弾薬のトラック部隊を伴っていないのと同じで、パレード用の儀仗部隊と変わらない。


 しかし、だからこそ、輜重を付けさえすれば瞬間で一大機動部隊に変身する。三国のいずれも、この儀仗部隊とその動きに注目しているに違いなく。じっさい、軍装を一変して以来、その手の者が後に先に見え隠れしている。


 茶姫は、軍団規模で三国に脅しをかけている。


――その気になれば、三国のどこにでも攻め入ってやる。さあ、茶姫の輜重はどこに居る?――


 女にしておくには惜しい奴だ。


 乾門から町に入ると、茶姫は皆虎門を開けさせた。



 ギギギーー



 かつては、北伐する征討軍を歓呼の声で送り、凱旋軍を迎えた軍門だが、門扉も蝶番も錆びつき、再び閉めることは困難だろう。


 その、三十年開かれたことが無いという皆虎門が軋みをたてて開いていく。振り返ると皆虎門の北には三丁ほどの軍路が堀を跨いで出征門に続いている。出征門を出れば転生国との緩衝地帯の森に出る。出征門はとっくに廃止されて楼閣を残すのみで、門そのものは壁と同じせんで埋め固められている。


 魏の姫将軍、いよいよ北伐を開始か!?


 懐古の住民たちは色めき立ち、三国の諜者たちは、群衆の中に身を隠しながらも猫じゃらしを見せつけられた猫のように落ち着きがない。その猫の中には爺に化けた曹素自身も居て、気づいた検品長の部下が茶姫に知らせたが「せいぜいジャレてもらおうか」と、悪戯を思いついた市のような顔をした。


「懐古の者たち、我は大魏国国王の妹にして軍団長の曹茶姫である。これよりは、この曹茶姫が、この軍都を復興し、往年の栄と勲しを取り戻すであろう! これより、我が騎馬軍団は、故事に倣い扶桑からの凱旋を模し、懐古の大路を行進する! 奮い立て勇者たち! 疾く大路に出でて、この勲しに歓呼せよ! 本日ただいまより、曹茶姫が懐古の字を廃し、皆虎の表記に戻すことを宣言するぞ!」


 ポン! ポポンポン! ポン!


 手回し良く花火が上がったのは検品長の荷馬車からだ。


 入場前に、茶姫が言葉をかけていたが、単なる労いではなかったようだ。


 花火は楼門の上空で『皆虎』の文字をなして、軍団のみならず、大路に出てきた住民たちからも歓喜の声が上がる。


 仕掛け花火なのだろうが、検品長、なかなかやる。


 

「進め!」



 茶姫が吠えると、軍団は轡を揃えて大路を南に進んだ。


「続け、市、後れをとるぞ」


「う、うん!」


 花火に見惚れていた市が、慌てて馬腹を蹴って近衛の先頭に出てしまう。


 他の近衛騎兵が、後れを取らじと市に続き、茶姫が笑って振り返りる。


「逸るな、者ども! これは凱旋のパレードであるぞ!」


 アハハ ワハハハ


 軍団と大路の民たちにも笑いが広がり、もう一度茶姫が制すると軍団はさらに速度を落として、悠々と進軍し始めた。


 新装備で統一した茶姫の騎馬軍団は、赤と黒の軍装に兜も胸甲もキラキラしく、兜の天辺に揺れる房は、兵一人一人が茶姫と共に、軍神毘沙門天の加護を被って靡くが如くだ!


 美少女に転生したこの身に相応しい言葉で言えば、超オシャレ!



 ドーーーン!



 南の来福門を出ようとしたとき、皆虎門の方角から再び花火が上がる。群衆も諜者どもも一斉に目を奪われる。


 茶姫は悠然と馬首を巡らせ、佩刀を抜いて再び吠えた。


「騒ぐな者ども! 予定通りである! 真の進路は北だ! 皆の者、あの大花火をくぐって北へ駆けるぞ!」


 おお!!


「吶喊!!」


 ウオオオオオオオオオ!!


 茶姫が駆けだすと、軍団は玉を狙う龍のように旋回し、うねりながら部隊が続いていく。


 進むと、皆虎門の向こう、出征門を塞いでいたせんのつかえが爆破されて、転生の森が見えている。



 フフ…………市よ、曹茶姫は、この信長に並ぶほどの者であるかもしれないぞ。



☆ 主な登場人物


 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生

 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま

 織田 市        信長の妹

 平手 美姫       信長のクラス担任

 武田 信玄       同級生

 上杉 謙信       同級生

 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ

 宮本 武蔵       孤高の剣聖

 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま

 今川 義元       学院生徒会長 

 坂本 乙女       学園生徒会長 

 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長)弟(曹素)


 


  


 

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