表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳴かぬなら 信長転生記  作者: 大橋むつお
49/192

49『まず南へ』

鳴かぬなら 信長転生記


49『まず南へ』信長  





 草原くさはらに降り立った俺と市は、ツナギの飛行服を脱ぐと、すぐに紙飛行機を解した。


 一枚の紙に解したのに飛行服を包んで、紙紐で十文字に縛ってしまう。


 穴を掘って埋めてしまえば、めったなことでは見つからない。


―― 隠密用の特別製なので、土に埋めれば三日で消えてしまいます ――


 忠八に言われた通りに、紙飛行機の埋葬を終えると、月と星の位置で方位を確認して、南西に向かって歩き出した。


 

「ちょっと東に寄れたんじゃない?」



 市が立ち止まった。


「地図では、豊盃に通じる道に出くわすはずだ」


「どうするの?」


「南に向かうぞ」


「うん、分かった」


 予想はしていたが、市の素直さは少し拍子抜けだ。


 こと作戦行動では兄の俺には敵わないと思っている。


 なんといっても、桶狭間からこっち、壊滅的な敗北を喫したことのない俺だからな。大嫌いな兄でも、敵地での行動は、俺に従うのが一番だと割り切っているのだろう。


「あれ?」


 しばらく行って道が見えてきたところで、再び市が立ち止まる。


「どうした?」


「方角が合わない」


 どうやら、頭に描いた風景と現実のそれが合わないので戸惑っている様子だ。


 すぐに正解を言ってやってもいいのだが、ちょっと放置してみる。


 おもしろいからな。


「そうか、歩いてるうちに方位がズレたのよ」


 完全な勘違いだ、目の前に伸びている道を豊盃に向かう南北街道だと思っている。


 実際は西の酉盃ゆうはいから豊盃に伸びる東西街道だ。


 自分たちは南北街道を目指していたはずなので、方角を間違えたと感じているのだ。


 しかし、俺は正解を言わない。


 やがて、白み始めた夜の底に、黒々と楼門が浮かび上がってきた。


「三国志って、実は大したことないんじゃない?」


「どうしてだ?」


「だって、あれ、豊盃の楼門でしょ。豊盃って、たしか国境地区の主邑、いわば県庁所在地。それにしちゃ、ちょっと貧弱」


「まあ、完全に夜が明けなければ街には入れん。その祠の陰で開門をまとう」


「うん」



 信長は意地悪だ?


 逆だ。



 このトンチンカンが家来だったら、俺は許さん。


 さっさと放逐するか、腹を切らせる。ちょっと調べてみれば分かるだろ。


 たとえば、佐久間信盛。勝家と並ぶ織田家の重臣だったが、あまりの無能さに、俺は身一つでやつを放逐してやったぞ。



 楼門には、お定まりの扁額(街の表札のようなもの)が掛けられている。


 やっと、妹は気づいた。


「え……汚い扁額ぅ…………?盃。上の字が読めない」


 え、まだ気づかない?


「あ、そっか」


 分かったか?


「豊って字が簡体字なんだ」


 あん?


 豊……酉……間違えるか?


「あ、門が開いた。行くよアニキ!」


 パタパタとお尻をはたくと、市は街道に飛び出していった。



 そろそろ教えてやろうか。


 いや、面白いから、もう少し放っておこう。




☆ 主な登場人物


 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生

 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま

 織田 市        信長の妹

 平手 美姫       信長のクラス担任

 武田 信玄       同級生

 上杉 謙信       同級生

 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ

 宮本 武蔵       孤高の剣聖

 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま

 今川 義元       学院生徒会長 

 坂本 乙女       学園生徒会長 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ