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鳴かぬなら 信長転生記  作者: 大橋むつお
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46『誰も文句言うな!』

鳴かぬなら 信長転生記


46『誰も文句言うな!』 市 




 場所をリビングに移すと、敦子は観念した。


 ドアとか窓とかはもちろん、エアコンや換気扇や床下収納の蓋から水道の蛇口まで伊勢神宮のお札を貼っておいたので、敦子は、どこにも逃げられないのだ。


「しかし、よくもまあ、こんなにお伊勢さんのお札を持っていたものねえ……」


「それは……浅井に嫁ぐときにいっぱいもらったからよ」


「え、だれにもらったの?」


「そ、それは……あの、バカ兄貴よ」


「え、信長くんが?」


「ま、政略結婚だったから、せめてもの罪滅ぼし的な? なんか、男らしくなくってというか、言い訳じみててやだったんだけどね」


「でも、その男らしくなくて言い訳じみてるのを大いに活用してると思うんだけど……ま、いいわ、どんな相談なのよ」


「え、あ、うん……どうして、兄貴といっしょに三国志の偵察なんかに行かなきゃならないのよ!?」


「わたしに聞く?」


「だって、うちの生徒会長じゃラチあかないんだもん」


「プータレてないで、行ってきなさいよ。生徒会長が言ったってことは、もう決定事項なんだから」


「たとえ、そうでもよ、納得したいのよ、納得。前世では、納得も何も、兄貴の言う通り、浅井に嫁いだり柴田勝家と再婚させられたり。挙句の果ては猿に攻められて、プライド傷つけられた勝家と天守閣で無理心中よ。それも、爆薬一杯仕掛けられて、天守閣ごと吹き飛ばされて、わたし、骨のひとかけらも残らなかったわよ!」


「ああ、あれね……」


「せめてさ、前田利家とかに攻めさせたら、勝家も、あそこまでブチ切れなかったと思う。思わない?」


「あれは、筒井順慶の真似だったわよね(^_^;)」


「順慶は兄貴に平蜘蛛の茶釜を渡したくなかったからでしょ、国宝級の茶釜といっしょに粉々に爆死って、順慶のはいちおうの美学とか、男の意地とか感じるけど、生身の女を、それも主筋の姫を粉々にしちゃうなんて、男のヒステリーじゃん! 悔しくって涙も出なかったわよ!」


「で、でも、いっちゃんも合意の上だったでしょーが」


「仕方なしよ! 天下のお市さまが、みっともなく切れたり泣き叫んだりってあり得なくない!?」


「あんたたち兄妹って、そういうとここだわるのよね」


「あ、あいつといっしょにすんな!」


「わ、わかったわかった。でもね、これくらいのこと乗り越えないと、来世でも同じことを繰り返すわよ」


「だ、だけどさ、三国志の奴らとは、もう出くわしてさ、死ぬ思いしたんだから、もっかい、偵察とかで向こうに行くなんて、あり得ないでしょ!」


「そこが試練よ。女の身で、戦国時代に覇を唱えるって並大抵のことじゃないわよ。女で天下統一なんて、針の穴にゾウさんを通すようなものなんだからね」


「天下……?」


「え、あ……違った?」


「天下なんて欲しくないわよ! んなもんサルにでもタヌキにでもくれてやるわよ!」


「いっちゃん……あんたいったい?」


「…………」


「な、なによ、なんで涙一杯浮かべて睨むのよ……」


「あんたの言う通りなのかもしれない……天下とらなきゃならないのかもね……わたしが、わたしらしく生きていくには……ゾウでも、ゴジラでも針の穴を通してやる! 天下を丸ごと針の穴に通してやるわよ!」


「いっちゃん……」



 墓穴を掘ってしまったかもしれない。



 でも、敦子……熱田大神にさえ、天下を取ることが目的だなんて思われたら、この織田市っていう日本史上最高の女は受けて立つしかないわよ!


 ツンデレの意地ってのを見せてやるんだから!


 もう、誰も文句言うな!




☆ 主な登場人物


 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生

 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま

 織田 市        信長の妹

 平手 美姫       信長のクラス担任

 武田 信玄       同級生

 上杉 謙信       同級生

 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ

 宮本 武蔵       孤高の剣聖

 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま

 今川 義元       学院生徒会長 

 坂本 乙女       学園生徒会長 

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