表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳴かぬなら 信長転生記  作者: 大橋むつお
40/192

40『テニスコートの誓い・2』

鳴かぬなら 信長転生記


40『テニスコートの誓い・2』  





 この目で見てきたんだ


 

 武蔵は僅か十文字の言葉を吐いただけだが、三成の鼻先に突き付けられた切っ先のように鋭い。


 突き付けられた三成も、動揺するどころか呼吸も乱さずに「役目はここまです」と返すのみ。


 文字にして八文字なのは、先輩である武蔵への遠慮なのか、八文字で十分だという傲岸さからなのか、見極めがつかない。三成も、全霊で立ち向かうと、武蔵に負けない三白眼になっている。


 二人とも、人相で損をしていると思うぞ。


「武蔵の言う通りだ。三国志は、この扶桑の国を呑み込もうという意図を隠していない。情報収集と分析が済めば、その結果に対応できるだけの準備をして攻めてくる。それを阻止するためには、三国志を凌駕する力で、その弱点を突かなければならない。そのための偵察行動なんだ、察してくれ」


 信玄が小さく頭を下げる。


 甲斐源氏の棟梁たる信玄が、生徒会本部役員とは言え、二つも三つも格下の近江の地侍出の三成に頭を下げるのだ。


 何か応えなければ、武蔵が、そのまま首を掻きとってしまうだろう。


「わたしの言うことも聞いてもらえるだろうか」


 謙信が穏やかに進み出る。


「はい、ご意見はいくらでも拝聴いたします」


「武蔵、太刀を下ろしてくれないか。これでは、話ができないよ」


「では、話の間だけは……」


 スッと武蔵が太刀を下ろすと、三成のこめかみから一筋の汗が流れ落ちた。


「では、仕切り直しに握手してくれないか。クールダウンすることからやり直そう」


「はい」


 言葉少なに手を差し出す三成。握手すると、三成の眉が動いた。


「気取られたかな、みんなのやり取りを聞いていて、けっこう汗ばんでしまったよ」


「あ、いえ、普通の事です」


 普通と言いながら、三成の表情は目に見えて緩んで、涙袋がぷっくりと三白を隠した。


 将棋盤の角のように硬い奴だが、案外、こういう人の緩みには弱いのかもしれない。


 そう言えば、こいつの主は、まだ姿は見えていないがサルだ。


「わたしも信玄も祖先をたどれば源氏だ。生徒会長も、嫡々の源氏、いちど茶の湯の席をご一緒して氏の親交を計りたい……というのは、どうだろうか」


「それはいい!」


 利休が審判席から下りて来た。


「新生徒会長には就任以来、まだ会えていないから、ちょうどいい機会だわ。亭主はわたしが務めさせていただくからね」


「それは、会長もお喜びになります。さっそく、お伝えして日取りを……」


「もし、そちらが良ければ、明日の放課後、茶道部の茶室で」


「はい、ご返事は、直接利休さんの方にさせていただきます。あ……ひとつよろしいでしょうか?」


「はい、なんなりと」


「会長のフルネームを、いちどおっしゃってはいただけませんか」


「え」


 ……なんだ?


「お安い御用……いいかしら?」


「はい」


「…………」


 俺以外の視線が、利休に集まる。


 なんで、人のフルネームを言うのに、こんなに空気が張り詰める?


「今川……よしもと」


「…………」


「いかがかしら?」


「はい、宜しいかと」


 それだけ応えると、三成は慇懃に礼をしてテニスコートから出て行った。



 転生して日の浅い俺には、まだまだ分からないことがありそうだ……。




☆ 主な登場人物


 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生

 熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま

 織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)

 平手 美姫       信長のクラス担任

 武田 信玄       同級生

 上杉 謙信       同級生

 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ

 宮本武蔵        孤高の剣聖

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ