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鳴かぬなら 信長転生記  作者: 大橋むつお
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35『二手に分かれる』  

鳴かぬなら 信長転生記


35『二手に分かれる』  






 鎧の切れはしや刀の折れが転がっている。


「雑だな」


 信玄が手に取った肩鎧は、小札こざねが分厚いだけで大きさに一ミリほどのバラつきがあって美しくない。


「冠の板に金箔が施してある、一応は侍大将級のものだね」


 謙信は分析するが手に取ろうとはしない。


 俺は無言で刀の折れを拾う。反りの具合から真ん中で折れたものと知れるが、半分に折れたものでも日本の太刀一本分ほどの重さがある。


「こんなものもあるぞ」


 武蔵が手にしたものは、柄元から折れた刀だ。


「両刃の直刀か」


「幅が謙信の太刀の倍ほどもあるぞ」


「太ければいいというのは、動物的だぞ、信玄」


「儂のは太くて切れ味も抜群だぞ」


「太刀や甲冑が不揃いだというのは、連合部隊ということだな」


「そうだ、西遼や韃靼の部隊も混じっている。三国志の支配地は広いからな……どうだ、こちらから偵察に出てみるか?」


 三白眼の目を真っ直ぐ向けて武蔵が訊ねる。JK風に言うとジト目のガン見だ、俺たち三人でなければ適当な理由を見つけて逃げ出すだろう。


「三国志に抜ける道はあるのかい?」


 謙信が気にせずに聞く。


「任せろ」


 抜ける道というのは袁紹が来たルートではないはずだ。敵もバカではない、そのルートは警戒が厳重になってるはずだ。


「スカートは脱いだ方がいいんじゃないかい?」


 道の険しさを思って謙信が提案する。みんな、こういう時の為に下にはスパッツを穿き、カバンには肘と膝のプロテクターを用意している。


「いや、いざという時は『道に迷った』と誤魔化す、装備を整えては不自然だ」


「そうだね」


 納得して、道を進む。


「戦死者も回収、装備もまともなものは残していない、やつらは、かなり余裕がある」


「でも、武蔵、袁紹は仕留めたんだよね?」


「ああ」


「自分を過信しすぎたのと、出くわした相手が武蔵だったのが袁紹の不運だったんだろう」


「袁紹の進入路は避けて、二手に分かれよう。わたしと信玄は西、信長と武蔵は東に周るというのはどうだろう」


「それでいい」


「わたしなら一人でいい」


「ここはチームワークだ、武蔵」


「特に落ち合うことはしない、明日学校で情報を突き合わすことにしよう。いいね」


 やはり、こういうところで話をまとめるのは謙信だ。俺と信玄は「「承知」」と返事をし、武蔵は沈黙を持って応えた。


 東の獣道に踏み込むとき、晩飯はどうしようかと思った。西日が傾き始めているのだ。


 いつも俺が作るわけにもいかないだろう。少しは市にも料理を教えてやらねばな。


 いや、こういう段取りめいたことは敦子にこそ任せるべきか。


 敦子の奴、近ごろ神さまらしいことはやっていないからな。


 気づくと、武蔵は、もう三十メートルほど先を進んでいる。


 並の奴なら、振り返るか立ち止まるかして仲間を待つだろう。


 もっとも、振り返ってジト目の三白眼で睨まれるのもかなわんがな。


 こいつと行動するときは、僅かでも他の事は考えない方がいいと思ったぞ。





☆ 主な登場人物


 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生

 熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま

 織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)

 平手 美姫       信長のクラス担任

 武田 信玄       同級生

 上杉 謙信       同級生

 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ

 宮本武蔵        孤高の剣聖


 

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