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鳴かぬなら 信長転生記  作者: 大橋むつお
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31『孤高の剣聖・1』

鳴かぬなら 信長転生記


31『孤高の剣聖・1』  





 せっかくの日曜日だというのに市は朝から出かけてしまった。



「御山の南斜面は、いい風が吹くからね」


 紅茶をすするついでのように敦子が言う。


 ついででも、美少女と紅茶という組み合わせは美的なはずなのだが、こいつはいけない。


 チンピラが電車のシートに掛けたように、股を広げて浅く座り、背もたれと同じくらいの高さに頭を置いて、だらしなくすすっているのだ。


「少しは神さまらしくしたらどうだ」


「いいでしょ、家族同然なんだから」


「俺は、実の弟でも切り殺したぞ」


「あ、信行くんね……」


 めんどくさそうに掛け直す敦子だが、しっかり腰を上げないものだから、ジャージがずり下がってパンツが覗く。


「敦子、いや、熱田大神!」


「あ、ちょっとくつろぎすぎか(^_^;)」



 えい!



 掛け声をかけると、英国貴族の娘のようなナリになって、ソファーもテーブルもかっちりしたビクトリア朝のウッドに変わった。


 フグ!


「おい、俺のまで変えなくていいだろ」


 ウッドチェアになったので、座面が五センチほども上がって、脊髄沿いに脳天までショックが走る。


「う~ん、ナリも変えよう!」


 グフ


 敦子と同じビクトリア朝のワンピに変えられる。


 ウエストがきついが、敦子に弱みは見せられない。


「南斜面にいい風が吹いたら、どうなんだ?」


「紙飛行機がよく飛ぶ」


「ああ、二宮とかいう奴と部活にしたんだったな」


「うん、信君もイッチャンも打ち込むものができて、目出度いわ」


「俺は、打ち込んだが空振りだったぞ」


「ハハ、武蔵くんね」


 ティーカップを置いて、空中に仮想ディスプレーを出した。


「撮ってたのか?」


「神さまだからねえ……おお、信玄の胸は良く揺れるぅ」


 前を走っていて、気づかなかったが、信玄の胸は豪勢に揺れている。これではスピードは出ないわけだ。


 しかし、目は油断なく武蔵を捉え、捉えながらも、校舎や遮蔽物には目を配って、先を越す手立てを考えている。


 謙信は黒髪靡かせて、走りも跳躍も華麗でありながらスピードが出ている。


 信玄が姿を消して先回り、旧校舎の脇から打ちかかり、戦いの場はグラウンドに移って朝礼台をぶん回してのフィナーレ。


 利休が「それまで!」と赤旗を挙げ、余韻を残して、その場に収まった。


「まるで、戦神いくさがみたちの剣舞を見るようね。こういうことにかけては、君たちは、もう完成の域だ」


「褒めてくれるのは嬉しいが、しょせん、袋竹刀の戦ごっこだ。四人とも承知している」


「武蔵は違うわ」


「ああ、武蔵は戦いを芸だと思っている。しかし、芸はいくら磨いても戦闘術でしかない。戦闘術で相手に出来るのは、せいぜい十人までだ。足軽の技でしかない」


「武蔵は天下を取ろうとしていたのよ」


「剣術で天下は取れん、釣り竿一本で海の魚を取りつくそうとするようなものだ」


「どうだろ……これを見て」


「ん?」


 敦子が示した仮想ディスプレーには、御山の南斜面を目指す市と二宮忠八の姿が映っていた。



☆ 主な登場人物


 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生

 熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま

 織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)

 平手 美姫       信長のクラス担任

 武田 信玄       同級生

 上杉 謙信       同級生

 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ

 宮本武蔵        孤高の剣聖

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