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鳴かぬなら 信長転生記  作者: 大橋むつお
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16『野にあるごとく・2』 

鳴かぬなら 信長転生記


16『野にあるごとく・2』   





 四人でくじを引いてもらいます。



 そう言うと、利休はカタチのいい手に四本の紙縒こよりを持った。


 では。


 信玄・南  謙信・北  信長・西  古田・東  という結果が出た。


「それでは、正門を出て、取りあえずは、各々、その方角に進んでください」


「進んでどうする?」


 信玄が真面目な顔で聞く。


 真面目だが目は笑っている。信玄はショートボブのよく似合う大柄な美少女なのだが、色気は無い。


 質量の大きい関心が漲っている。特に鳶色の双眼は豊かな涙袋に座っていて、真顔でも仄かに笑っているように見える。圧を感じさせずに人を取り込む目だ。これに加えて、凄まじい行動力がある。


 前世では、この俺でさえ「信玄公上洛の折には、信長自らが公の馬の轡を取りましょう」と言ってしまった。


 強大な信玄の力の前では恭順の意を示すしかないという俺流の割り切りなのだが、不思議に嫌な気持ちにはならなかったぞ。


 同様の事を将軍足利義昭にも言ったが、正直、口にするたびに背筋にミミズが這うような気持ちの悪さがあった。


「とりあえず、それぞれの方角の門から学校を出てもらいます。そして、最初の角を曲がったら、あとは自由に進んでください」



「進んで……そのあとは?」



 謙信が小首をかしげる。


 謙信は黒髪のロン毛だが、ポニーテールにしているせいか、目尻がキリリと上がって、切れ者美少女の風格。


 ポニーテールがゆらりとそよいで、露わになるうなじの美しさは、俺が見てもゾクリとするほどだ。


 人を真正面から見据えるところにストイックな峻烈さを感じさせるのだが、この小首をかしげる仕草が、微妙な緩みを感じさせ、この主のためならばと家来たちを奮い立たせるのだろう。


 ひょっとしたら、毘沙門天にも「このわたしに加護を与えてくれるのか?」と小首をかしげたのかもしれん。


 それと、謙信の色白は『美白』などと言う形容が濁って聞こえるほどに白い。古来、越後の女は色白との評判であるが、謙信は、その徴であると言えよう。


 前世から、謙信は女ではないかと噂されていたが、さもありなん。


 しかし、こうして女として転生して来ているのだ。男であったことに間違いはなかろう……いかん、うっかり見とれてしまった(-_-;)。


「野にある如く、しかも、華道的に調和がとれたものを探して写真に撮ってきてください」


「先輩、華道的調和とは、いかがなものでしょう!?」


 古田こだが詰め寄る。


「フフ、古田さんが思っていたようなことでいいんですよ」


「しかし」


「器の中に閉じ込めたものではなく、もっと広がりのある世界で見つけなさいというほどのことですよ。にあるごとく……ですよ」


「は、はあ……」


「ね、信長さん(o^―^o)」


「で、であるか」


 あぶない、ちょっと見透かされたような気がしたぞ(;'∀')。


「はい、では、みなさん出陣です!」



 オオ!!



 なにかのせられた感じで、それぞれ指定された門から出発したのだった。


 


 

☆ 主な登場人物


 織田 信長       本能寺の変で打ち取られて転生してきた

 熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま

 織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)

 平手 美姫       信長のクラス担任

 武田 信玄       同級生

 上杉 謙信       同級生

 古田こだ      茶華道部の眼鏡っこ


 

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