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僕のために呪われてくれませんか?

作者: ai

「私は呪われている」の兄視点です。

こちらは第三弾なのでぜひ第一弾、第二弾も御覧下さい!

『ごめんなさい…っ!私のせいでっ…うぅ』


 真っ白な世界。

 誰かが自分を責めながら()()1人で苦しそうに泣いている。

 泣かないでほしいのに。

 ()()()()()笑ってほしいのに。

 僕は慰めてあげようと手を伸ばす。

 それに気づいたようにその人は僕に目を向けて無理したように笑う。


『ありがとう。優しいのね。でも、私のせいだからいいのよ』


 違うんだ。

 僕はそんな顔じゃなくてもっと心からの笑顔が見たいんだ。


 だって僕は…


 **********************


 窓から差し込む朝日が僕の目に差し込み眩しくて目が覚めた。

 何度目の夢だろうか。

 何度も見るこの夢を僕は思い出したいのに、頭に霧がかかったように思い出せない。

 ただ鮮明に覚えているのは泣いている彼女にまた笑ってほしいということだけ。

 自分でもなぜ「()()」なのか分からないが、どうしてかあの人が大切なんだと自分ではない自分が叫んでいる。


 コンコンッ


「おはようございます、ラザール様。朝食の用意が出来ております」

「あぁ、すぐに行く」


 執事が僕を呼ぶ。

 それでも脳裏に()()()が焼き付いて離れない。

 それでも、僕はすぐに頭を切り替えなければならない。

 だって、今日も僕にはやるべき事があるのだから。




「きゃあっ!あの方が()()メリィ家の嫡男であらせられるラザール様よ~!」

「まぁ…!何と美しい方なのでしょう!まるで権神様のようですわ!」

「それはそうですわよ。メリィ公爵もその奥方もお美しいですもの。そのご子息であるラザール様も弟君のリンド様も美しいに決まってますわ」


 また令嬢達が僕を見て美しいと言う。

 それが僕にとっては日常茶飯事だ。

 何故なら、僕は小さくも細い目、鼻や口は大きく立派、体格も大きく逞しく育った。

 それはこの世界で愛され美しいとされる権力の神、権神に似ているからだ。

 権神に近ければ近いほど美しい。

 最近では、美しい父上にもよく似ていると嬉しそうに母上やそのご婦人方からよく言われるようになった。

 美しいと言われて嬉しくないと言えば嘘になる。

 だが…


「才能に恵まれているにもかかわらず謙虚でとても紳士的。なのに今だに婚約者がいないのがとても不思議ですわ」

「きっと()()妹君が心優しいラザール様を引き留めているに違いないわ」

「まぁ!何と非道いことを!ラザール様がお可哀相だわ!」


 そんな気持ちは即座に捨てることもまた日常茶飯事だった。


 "呪われた令嬢"


 それは僕の大切な妹であるルチアの事を意味している。


 ルチアが産まれたばかりの頃、何故か父と僕が顔を見せればこの世の終わりのような泣き声を出され、父と2人で夜な夜な泣きながら絶望したのは今にも鮮明に覚えている。

 だが、少しずつ話せるようになってからは僕のことを「おにぃさま」と可愛く呼ぶようになった。

 それがまた天使のように可愛く愛らしかった。

 父と母の色を併せ持ち、家族だけでなく下働きの者達にまで舌足らずではあるものの優しく丁寧に扱うルチアは屋敷の者全てから愛されていた。

 こんな可愛いルチアは僕が守るのだ、と決意していた矢先にそれは起こった。。


 ルチアは何者かによってとても強力な呪いをかけられ、目が見えなくなってしまったのだ。

 それ以来、妹は塞ぎ込むようになり、部屋から出る事が無くなってしまった。

 遂にデビュタントの年になっても出てこなかったルチアは社交界の噂の的となった。


 目が見えなくなってしまったのは嘘で実際は醜くて姿を見せられない

 醜い姿に見合った醜い心の持ち主


 など、事実とは全く違う根も葉もない噂は次第に大きく広がり気が付いたときには収拾がつかない規模で知られることになっていた。


 だから、僕は必死になって呪いを解く方法を調べた。


 呪いさえ解ければルチア笑顔になるんだ!

 そして、ルチアが外に出られるようになって、噂が消す事が出来る!


 公爵家という権力も、事業によって得た莫大な資産も、使えるものは全て使った。


 それでも呪いを解くことは出来なかった。


 何がルチアを守るだ!

 守れていないじゃないか!!

 家族を守れず、救うことすら出来ないならそんなものいらない!!


 いくら探しても救う手立てが見つからず、ただ自分のへ無力感に打ちひしがれてた。


 そんな僕を見て父や母が優しく声をかけてくれた。


「ラザール。お前は良くやっている」

「…父上。しかし…」

「いいえ。私は貴方の行動をとても誇りに思っているわ。けれど、頑張りすぎは良くないわ。事業や国外での情報収集は私達に任せなさい。これは私達家族の問題なのだから」

「そうだぞ。ルチアもそうだが、お前もリンドも私の愛する子どもなのだから私達を頼りなさい。良いな?」

「父上。母上。…ありがとうございます!」


 尊敬できる父上。

 優しい母上。

 可愛い妹弟。


 僕はメリィ家に産まれる事が出来て幸せだ。

 だから僕は僕のやり方でルチアを救う方法を見つけるんだ。


 その日から僕は多くのパーティーに参加するようになった。

 せめて、ルチア自身を見てくれる友達を探そうとしたのだ。

 しかし、どの令嬢も噂ばかりを信じ、僕に同情するか顔色を伺うばかり。

 いくら違うのだと言ってもルチアを庇っているとしか思ってはくれなかった。

 しかもあろうことか、第一王子が懇意にしている男爵令嬢には「ラザール様、私には全て分かっていますよ!本当に最低ですよね!そんな妹を持ってしまい大変かもしれませんが、大丈夫です!私がラザール様を支えますからねっ!」と全くもって話が通じなかった。

 初めて令嬢に対して殺意を覚えたが、何とか押しとどめた僕を褒めてほしい。


 そしてその日のパーティー。

 僕はいつものように参加すると、そこにはレオナルド殿下がいた。

 この国の正妃を母に持つ第二王子ではあるが、その境遇はある意味、ルチアに似ていた。

 周囲は噂に惑わされ2人の本当の姿を見てもらえないのだから。


 彼は皆から愛されている権神を倒してしまい、創造神から罰を受け人間に落とされた醜い力神の生まれ変わりである"忌み子"だったから。

 その生まれ変わりであるレオナルド殿下は、顔の特徴を色濃く受け継ぎ、この世の者とは思えないほどに醜い。

 その醜さのせいで彼は社交界でも、家である王宮でも、誰からも嫌悪された。

 だから、彼は外に出ることを嫌い、自ら人と距離を取っていた。

 だが、今回は第一王子主催のパーティー。

 参加せざる終えなかったのだろう。

 殿下を見た周囲が騒めき始める。


「ひっ…化け物っ…!!」

「静かにしろ!聞こえるだろ!?しかし、本当に何でこんな所に"忌み子"が来るんだよ。ついてないぜ」

「そうね。早く向こう行きましょう。気味が悪いわ」


 レオナルド殿下の近い場所で話しているのだから聞こえないわけがないだろうに。

 どいつもこいつも噂ばかりに惑わされてバカみたいだ。

 聞こえているはずの殿下は目線を少し向けるだけで、庭に向かってその場を後にした。


 殿下が去った後、ふと思いつく。

 ルチアも殿下もひとりぼっちだ。

 家族以外との交流を諦めてしまっている。


 殿下は確かに醜い。

 でも、それだけだ。

 1度だけ王宮で上級文官と話している殿下を見たことがある。

 殿下はその上級文官に財政管理について自らの意見を言っていたのだ。

 内容を聞く限りとても画期的で効率的な案で長年勤めている文官もぐぅの根も出ないほどだった。

 それ程までに聡明な方なのだ。

 正直、あの女に言い寄られて婚約者を蔑ろにしている第一王子より遥かに殿下の方が王太子に向いていると断言できる。

 それでも、立太子出来ないのは噂とその容姿のせいで第一王子より貴族からも市民からも支持を得ることが出来ていないからだ。

 それに対して第一王子は美しい見た目とカリスマ性を持っているためどうしてもそちらに人が集まってしまう。

 …剣を教えてもらっている師匠が彼らと同じだから知ったことだが、殿下の方が剣の腕も勉学も上らしい。

 第一王子は、遊んでばかりで真面目にしていないのだとか。

 本当に周囲は容姿で判断しすぎではないだろうか。


 しかし、ルチアはどうだろう。

 ルチアは目が見えないから、殿下を容姿で判断出来ない。

 もしかすると、良き友人関係が築けるのではないだろうか。


 そう考えた僕は彼が向かった中庭に出た。

 中々見当たらなくて探していると、何処からかまた殿下の悪口を言っている集団がいた。

 それを無視して殿下を探そうと歩こうとした時、僕が見えていないのか目の前で今度はルチアの悪口が始まった。

 いい加減、我慢できなくなっていた僕は彼らに注意という名の脅しをした。

 すると、一目散に逃げていった。

 まぁ、わざわざ公爵家に喧嘩を売りたいというバカはいないだろう。


 用は済んだと思って帰ろうとしたとき、探していた人物である殿下自ら僕に話しかけてくださった。

 話して分かったことは、やはり殿下が王太子になればいいのにと思えるほど聡明な方だということだった。

 僕の目に狂いはなかった。

 そう思った僕はルチアの話をしてみる。

 途中から妹自慢になってしまったが、今の妹の現状を伝えてみると殿下は自分の事のように辛そうな表情をする。

 その表情を見て「ルチアと一度話してみませんか」と口を開こうとするより先に、殿下の方から「会って何かしてあげたい」と言ってくださったのだ。

 僕は驚いたが、それ以上に嬉しい気持ちで溢れかえっておりすぐにその事を了承した。


 そこからの僕の行動は速かった。

 殿下以上の収穫など見込めなかったのですぐに馬車で家に帰り、父上と母上に事情を説明した。

 父上も母上も嬉しそうにすぐにおもてなしの準備に取り掛かった。

 殿下は男性が苦手なルチアのために今日は短時間しかおられないが、仕方ないだろう。

 ちょうど準備が終えた頃、殿下はやってきた。

 父上も母上も初めて見た殿下に驚いてはいたが、ルチアのために来てくれたことを手放しに殿下に感謝をした。

 その後、すぐにルチアに会ってもらいたい人がいるのだと言って面会の許可を仰いだ。

 条件として、扉越しではあるものの、ルチアが久しぶりに家族以外の誰かと話してくれることが何より嬉しかった。

 2人で少しだけ話した後、殿下は時間のためすぐに出発された。

 馬車に乗るとき殿下は「メリィ嬢と話すためにこれからもここへ訪れてもいいだろうか」と恥ずかしそうに許可を求めてきたので「是非に」と言った。


 その日以降、殿下はほぼ毎日欠かさず我が家にやって来てはルチアと楽しそうに会話した。

 兄としては可愛い妹に家族以外の男が寄り付くのは複雑ではあったが、殿下なら良いかなとさえ思っていた。

 ルチアも殿下もお互いを名前や愛称で呼ぶほどには仲良くなっているようだし、何より話しかけても暗い声しか出さなかったルチアが、最近、楽しそうに話してくれるようになったのだ。

 嬉しくないわけがなかった。

 だが、同時に懸念すべきことがあった。


 殿下には既に婚約者がいる。


 第二王子なのだからいないことの方がおかしいのだが、もし、ルチアが殿下を好きになってしまった場合、その婚約者がいる限りルチアの思いを叶えることはできないのだ。

 そればかりはどうしようもなかった。


「どうしたものか…」


 自室で一人、跡継ぎとしての勉強を淡々とこなしながら考えていると月がすでに高く昇っていたので僕はベットへと寝ころんだ。


 ********************



『もうすぐで…』


 今日もいつもの夢を見た。

 しかし、いつもと違うところがあるとすればその人は今日は泣いていないことだ。


『今日も来てくれたのね。いつもありがとう。でも、もうじきだから大丈夫よ…』


 前見たときよりも笑っている気がするが、それでもまだ無理をして笑っているように感じてしまう。

 その姿を見た僕は自分の腕の中にその人を閉じ込める。

 慰めるように頭をなでながら。

 その人は穏やかな笑みで僕の心音を聞くようにして体を預けてくれた。


『本当に優しい子ね。…あなたを愛していたらこんなにも苦しい思いをしなくても良かったのかしら』


 この言葉に心臓がギュッと掴まれたように嬉しいような悲しいような感覚になる。


 あぁ、そうか。

 僕は…



 ********************


 風が僕の髪で遊ぶように吹いたことで僕は目を覚ました。

 いつもなら覚えていない夢の内容を今は鮮明に思いだせる。


「いつか、ちゃんと心から笑ってくれる日が来ますように…」


 どうしてかそう願わずにはいられなかった。

 僕は今日も執事に呼ばれ、何故か高鳴る鼓動を誰にも知られないように静かに部屋を出た。


 今日もルチアに会うために殿下は我が家を訪れる予定だが、今日の殿下は忙しいため僕がお迎えに上がることになった。

 殿下の執務室に辿り着いた僕は扉の前に控えている護衛に殿下への要件を伝える。

 だというのに、その護衛は殿下へのお目通りをさせてはくれなかった。

 理由を聞くと、殿下の婚約者だった令嬢が他の男と関係を持ったことで殿下の婚約者から外され立太子することが非常に困難になってしまい、その事でショックを受けているのだという。


 僕はその話を聞いて、むしろ今が好機なのではと考えた。

 我が家に毎日のようにルチアと話すためだけに赴いているお方が、ルチアを好きでない訳がない。

 そして、ルチアもあんなにも楽しそうに話していたのだから彼らは両思いなのではないだろうか。

 兄として何も守ることができなかった僕のルチアに対するせめてもの償いとして、何が何でも行動しなければ。

 その後は体が勝手に動いていた。

 ごちゃごちゃ言う護衛を黙らせて、部屋に入り放心状態の殿下を無理矢理、我が家に連れて行った。

 あとはルチアの部屋の前に放置だけ。

 殿下のことはルチアが何とかしてくれるだろう。

 僕はルチアに殿下を託してその場を後にした。


 部屋に戻り僕は一息ついた。

 これからやるべき事を頭の中で整理する。


「まず王宮への謝罪文と婚約するための申請とそれから…っっ!!?」


 突如、頭が雷に打たれたような激痛に僕はベッドに倒れ込んだ。

 僕はあまりの衝撃に気を失った。


 *********************



 気がつくとそこはよく夢で見る景色が広がっていた。

 だが、夢の時のように自分の意識がしっかりとしている。

 それにあの人がいない。

 1人戸惑っていると頭の中に何処からか男性の声が響く。


『よくぞ任務を果たしてくれた』

「えっと、あなたは…?」

『ん?まだ記憶が戻っていないのか?』

「一体何の話を…」

『思い出せるように説明してやろう。女神の愛し子…つまり其方の妹と力神の生まれ変わりであるあの王子が契約によって結ばれたのだ』

「契約?」

『…説明するには…そうだなぁ、昔話をしようか。

 お前達の国に伝わっている神々の物語だ。

 かつて、女神は力神を愛していた。

 そして、力神も女神を愛していた。

 だが、その気持ちをお互いに伝えることはしなかった。

 権神は女神を愛していたため、これを利用し力神を神界から落とし女神を自分のものにしようとした。

 神には絶対に犯してはならない事があった。

 1つ、人間と神は交わってはならない。

 1つ、何があってもその力を私情によって使ってはいけない。

 この掟を使い、権神は力神が怒って自分にその力を向けさせ、下界へ落とそうとしたのだ。

 力神はまんまとその策にかかってしまった。

 理由は何にせよ、力神は私情で力を振るった。

 力神は下界へ落とされた。

 しかし、神界では権神にも罰が下された。

 それは、心を学ぶために下界の人々の為になることをすることだった。

 それから権神は人々の為に行動した。

 人々は権神に心から感謝した。

 しかしそれは同時に下界へ落とされた力神に非難を向ける結果となった。

 人々は彼に冷たく当たった。

 人並みの生活すら送ることは難しかった。

 時には暴言だけ出なく暴力まで振るわれた。

 …その結果、力神は力尽き死んでしまった。

 それから、魂の輪廻により1000年に1度力神の生まれ変わりが産まれた。

 しかし、人々は力神がしたことをどれ程の月日が経っても許すことは無かった。

 これを見ていた女神は悲しんだ。

 私が想いを伝えていれば、愛さなければ、と。

 それを見ていた創造神は自分の子供も同然である彼らを助けようとある権利を与えた。

 力神の生まれ変わりには何でも1つだけ欲しいものを手に入れる力を与えること。

 女神には女神の愛し子を介して生まれ変わりを助けることが出来ることだ。

 これは創造神が過酷な運命を辿らせる力神への償いと、ずっと嘆いている女神への慰めの気持ちが詰め込まれていた。

 女神は今は亡き力神ためと喜んだ。

 契約はその欲しいものが永遠に離れることは出来ないという創造神の呪いだ。

 権利を与えてしばらくして、その年の力神の生まれ変わりが産まれた。

 女神はすぐに愛し子をつくった。

 そして女神は考えた。

 どうしたら力神の生まれ変わりが幸せになってくれるだろうかと。

 そして考えついたのが、その生まれ変わりに理解者や愛する者を作ることではないかと。

 かつての自分がそうだったように。

 幸い、女神の愛し子は女の子。

 しかも、助ける権利があるから必ず何処かで愛し子とは巡り会うことが出来る。

 なら、愛し子と恋仲になれば良い。

 女神はそう考えた。

 しかし、これには膨大な力を使わなくてはならない。

 女神の意見を聞いた創造神は女神を助けるための存在を作った。

 …もう、これだけ話したら分かるだろう?』


 …あぁ、全て思い出した。


 僕は創造神様の使徒だ。


 ずっと女神様の側にいた。

 女神様の願いを叶えるために。

 最初は任務を果たすことだけしか頭になかった。

 でも、女神様と話すうち僕は女神様を助けるための存在として産まれたのに、1人の女性として愛してしまっていたんだ。

 女神様が泣いているなら僕が1番に慰めたい。

 笑っているならその隣で見ていたい。

 でも、女神様の側にいたら嫌でもわかる。

 女神様は今でも亡き力神様を想っておられる。

 だからこそ、その生まれ変わりを救いたいのだということも。

 何もなかった僕に感情を下さった女神様をこれ以上困らせたくなかった。

 せめて、役に立ちたかった。

 だから、女神様の愛し子の兄として手助けすることを決意した。

 それはラザールとして意識を統合しなくてはならなかったが仕方が無い。

 僕が記憶を失ったのは女神様がルチアと殿下を巡り合わせるために呪いをかけたからだ。

 ルチアを介して存在していた僕の意識は呪いによって阻害されていたのだ。

 そして今、ルチアは殿下から契約された。

 前に呪術師に呪いを解くにはそれよりさらに強い呪いをかけることだと言っていたのを思い出す。


『思い出したようだな。…お、ちょうど来たぞ』


 声の主が反応するので、僕も顔を前に向けた。

 そこにはいつも夢で会っていた人、女神様が優しそうに笑っていた。


『ありがとう。私のためにずっと支えてくれて。おかげで、あの子達は結ばれることが出来たわ。…見て』


 空中にふんわりとした光景が見える。

 目を開けて恥ずかしそうにはにかむルチア。

 見たことも無いほど嬉しそうに笑う殿下。


『…本当に良かった。私の考えは間違いではなかったわ。そうだ、あなたにお礼がしたかったの。何でも言って?』


 すると、声の主も


『なら、此方からも願いを叶えてやろう』

『あら、この声は創造神様ね』

『女神よ、バラしてはつまらんでは無いか』


 まさかの自分の仕える御方だったことに硬直してしまう。


『まぁ、固まってしまったわ』

『感情を学んだことで面白くなったことだ。とにかくだ、願い事はなんだ?』


 それを言われてハッとする。

 僕の願い。

 …あるには、ある。

 だが、本当にこれを言ってしまって良いものなのか?

 しかし、伝えねば始まらないことも確かなのだ。


「では、先に女神様にお願いが2つあります」

『ふふっ、良いわよ。他でもない貴方のためですもの。出来ることなら何個でも言って』

「まず1つは、これからも女神様の補佐をさせて頂きたいです」

『まぁ!そんなことで良いの?私も嬉しいわ!ぜひお願いね!』

「ありがとうございます。…そして、もう1つは…」


 女神様の前で膝をつき目を見て


「僕がこれからも女神様を愛し守り続ける許可を下さい」


 と言った。


『え』

『ほぉう』


 女神様は顔を真っ赤にして驚いたように

 創造神様は面白そうに

 僕は女神様へさらに伝える。


「僕は力神様のように女神様を泣かせたりしません。泣いてしまったのなら抱きしめて慰めます。権神様のように無理強いもしません。誰よりも大切にすると誓います。僕には特別な力も無ければ今の僕は同化して人間になりました。人の分際でと思われるかもしれません。しかし、嬉しいも、悲しいも、切なさも、愛しさも、全て女神様が教えて下さりました。生涯ずっと、僕に色んな感情を教えてはくれませんか?」


 女神様は狼狽える。


『えと、でも私は…』

「知っています。今でも力神様がお好きなのでしょう?それも含め、僕は女神様を愛しているのです。…それにこれから女神様が僕を好きになってくれる可能性だってあるかもしれません。それとも、女神様は僕のことがお嫌いでしょうか?」

『…私が貴方を嫌えるわけが無いでしょう?貴方は1人の私に何度も心を傾けてくれた。いつも私の意思を尊重して側で支えてくれた。それがどれ程嬉しかったか…』


 僕たちの話を聞いていた創造神様が女神様に問う。


『女神、其方はここまでよくやった。そろそろ、役目を終えてもいい頃だ。これまで頑張ってくれたその褒美を渡そう』


 すると、光と共に目の前に大きな扉が現れる。


『その扉を潜れば下界へ降りられる。しかし、ここへは2度と戻っては来れない。我の呪いが掛かっている。その呪いを受ける覚悟があるなら、潜ると良い。…我はそろそろ仕事をせねばいけない。これより後のことは、2人で決めると良い。ではな』


 そう言うと、頭の中に響いていた声は何も聞こえなくなっていた。

 創造神様は女神様をずっと心配していたのだ。

 それを女神様も伝わっているらしく涙が零れそうだった。

 それを私は袖で拭う。


「ごめんなさい。今はハンカチを持ってないもので」

『ふふっ、ありがとう』

「どういたしまして。今更ですが言わせて下さい」

『ん?何を?』



「女神様、僕のために呪われてくれますか?」



 僕は扉を通る前に手を出して問う。

 女神様は可笑しそうに笑う。


『本当に今更ね。えぇ、喜んで。なら、私も今更、言わせて貰うわね』


 女神様は僕が見たかった心からの笑顔を見せながら僕の手を取る。


『確かに私は昔、力神様が好きだったけど、今は貴方が好きよ、ラザール。これから私達、2人で幸せになりましょうね』

「えぇ、もちろん」


 そして僕たちは扉を潜り下界へと降りた。

 さぁ、ルチア達の事も祝ってあげなくちゃ。


 勇気を出して気持ちを伝えて良かった。

 あの時、もし近くに居られるならそれでいいと思って諦めてしまっていたら。

 もし、殿下が落ち込んで部屋から連れ出していなかったら。

 もし、ルチアのためにと行動していなかったら。

 未来は変わっていたのかもしれない。

 でも、今、僕には掛け替えのない恋人が出来た。

 僕に全てをくれた人。


 愛しています、僕の女神(ティターニア)





 その後、こんな物語が出来た。

 心優しい男の子が美しき女神に恋をした。

 その人間は女神の愛し子を導き、そして忌み子さえ導いた。

 創造神から褒美を授かった。

 それは女神と側に居られますように、と。

 創造神は女神を人間に落とした。

 人間になった女神様は男の子と結婚し、沢山の家族に見守られながらその男の子と最期まで笑って過ごしましたとさ。


如何でしたでしょうか?

まさかの展開を考えてみましたw

今回も第三弾が好評であれば第四弾を投稿します。

分かりにくいところは第一弾、第二弾で見ると分かりやすいかもです。

感想や意見もお待ちしています(^_^)ゞ

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