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プロローグ

17時のチャイムが鳴る。

「っし、帰るか。」

定時を迎えたことで思わず口に出してしまう。


それと同時に皆帰る支度をする。もちろん、俺もその一人である。


「おつかれしたー!」

「お疲れ様ー!」


9時に始まり、17時に終わる。なんとも素晴らしい会社であろうか。俺は今日もウキウキしながら帰路に着く。35歳、彼女なし。童貞。それでもこの会社で働けているだけ、他の人より恵まれているのだろう。うん、そういうことにしておこう。


夕焼けにより、オレンジ色に色付いた街並みを軽い足取りで歩く。


今日も良い一日だったな。

と、口に出したい気持ちをぐっと堪えて心の中で呟く。

まあ、実際に口に出して歩いている姿を想像して見てほしい。そんなことをしている人を見かけたら、皆例外なく変人認定するであろう。なので、そこは理解していただきたい。


帰り道を歩いていると、色々なことがある。

例えばスカートの短い女子高生が横を通り過ぎることも。


風よ、我に力を!

と、言っても風は力を与えてくれるはずもなく、ただ隣を通り過ぎるだけである。


物語の主人公にでもなれば、そんなことは悠々とできてしまうのだが、残念ながら俺にそんな力は有りはしない。


あ、そうだ。物語で思い出したが、今日は家に帰ったら昨日の夜録画しておいたアニメを見ながら酒を飲もうと思う。


恋愛系、SF系、異世界転生系と色々あるが、面白ければどれでもいい。


確か、昨日は異世界転生系だったはずだ。


帰宅後のことを考えるとニヤけが止まらない。

おっと、間違っても表情に出さないようにしなければ。


帰宅後のことに思考を巡らせていると、横断歩道に差し掛かった。

すると、目の前にはまたもや女子高生が居るではないか。

くそ、こんな時俺に風を操る力があれば。と、先程と同じことをまた考えてしまった。


信号が変わる音がして、俺や女子高生を含めた通行人が渡ろうとする。

と、その時、ものすごい轟音と共にトラックが突っ込んできた。


これは非常にまずい。ただ、俺は咄嗟に女子高生を助けるという物語の主人公のようなことはできない。

そんなもの、どこかの異世界転生系主人公がする非常にかっこいい行動であり、現実にはそんなことをする余裕なんてない。


すまん。そう心の中で女子高生に謝罪したその時、俺はものすごい衝撃と共に吹っ飛ばされた。


なぜだ。俺は絶対に助けたりなどしていないはずなのに、どうしてだ。


だが、考えようにも痛みが意識を奪っていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


失っていた意識が徐々に戻りつつある状況下で俺は何故あの時衝撃を受けたのかを考えた。が、見事に何も覚えちゃいない。


ただ、事実としてあるのは、体がとてつもなく痛いことくらいだ。


とりあえず、失っていた意識を確実に取り戻したので、目を開けてみることにしよう。

実はあの後、お酒を飲みすぎて記憶が無いだけなのかもしれない。


そうだ、その可能性にかければ良いのだ。


そんな淡い期待を抱き、俺は目を開けた。


「知らない天井だ…。」


て、違う違うちがーう。

今は人生で言ってみたかったセリフランキングの上位のセリフを言っている場合ではない。


ここは俺の家ではない。俺の住んでいたアパートは、もっとこうなんて言うか、そう天井が低いのだ。


そして同時に、明らかに病院っぽくない天井。どう見てもこれは

「誰かの家か?」

そう口に出してしまうほど、古風な感じであった。


あー、考えていても仕方ない。とりあえず、二度寝するか。体痛くて動きたくないし。


と、そこへ一人の男が入ってきた。

「気がついたか?」

と言われたが、返事をするよりも先に別のことを思ってしまう。


おいおい、せめてここは若い女の子であってほしかった。と。


ただ、返事をしないのも失礼なので、ここは社会人らしく、きちんと挨拶をしなければ。

そして二度寝したい気持ちを押し殺して、体を起こす。あ、やっぱり痛い。


「はい。体は痛いですけどなんとか。それと、ここがどこかはわかりませんが、助けていただいてありがとうございます。」


ん?ちょっと待て?俺の声ってこんな高かったか?

もっとこう、30代の渋みがあったはずだが。


「へぇ、若いのにしっかりしてるんだな。あと、礼を言うのは俺の方さ。お前さんはあの後、気を失っていて知らないかもしれないが、命の恩人だよ。ありがとう。」


人にきちんとお礼が言えるのは素晴らしいことだ。この男は若いのにしっかりしていて好感が持てる。


ん?ちょっと待て?若いのにしっかりしてるんだな。だと?いやいや、どう見ても俺の方が年上だろ?

そして、命の恩人?もうわけがわからん。


そうか、これは夢だ。アニメを見すぎて変な夢を見ているんだ、そうに違いない。


俺は目の前に人がいることを忘れて、自らの頬を抓る。痛い。いや、それ以前に体がものすごく痛いのだ。


俺は会社からの帰り道に、なんやかんやあって若返ったらしい。帰り道を歩いていると、本当に色々なことがあるようだ。



って、そんなことあってたまるかー!!!!!


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