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パーティー視点。今明かされるロックの支援魔法

「お前らなんで道も覚えずにダンジョンに潜ってるんだよ! 普通地図がでているダンジョンはある程度道を覚えておくか地図を1人1枚は持っておくべきだろ!」


「うるさい。地図くらい読めなくたって何とかなってたんだよ」


「だいたい道の案内はロックに任せてたし」


「ねぇ? これ夕方服買いにいけないよね?」


 滅火のダンジョン5階層でキッドの怒鳴り声が響いている。

 ロックを置いていったS級パーティーグラエラの4人は9階層から5階層までを力ずくでなんとか駆け抜けてきたが、行きの倍以上の魔物と遭遇し苦戦を強いられていた。


 今までこんなに苦戦をしたことがなかったパーティーメンバーは状況が切迫していくことで段々と仲が悪くなっていった。


 特に勇者であるキッドのイライラは絶頂を迎えようとしていた。


「本当にお前ら馬鹿ばかりだな。本当にS級なのか? Cランクだってもう少しまともにダンジョンの中を歩けるぞ。それにお前ら明らかに動きが悪くなっているだろ」


「あぁ? 俺らがCランクならお前はエセ勇者じゃねぇか。武器の管理もできない奴が勇者を騙ってるんじゃねぇよ。動きが悪いって言ったって疲れがでてくるんだから仕方がないだろ」


「お前だけじゃねぇよ。そっちの女の魔法の威力だって下がってるじゃねぇか」


 ロックを置いてきた10階層からやっと5階層まで降りてきていたが、確かにいつも以上に疲労感があるのをエミーは感じていた。


 いつもより魔法の威力は低くなり、発動までの時間もかかる。

 それに何より身体が重くなり動けなくなっていた。


 それはエミーだけではなかった。

 アイザックもカラの動きも明らかに悪い。


 ボスへ向かっている時はロックがかなりあっさりと道中の魔物を倒していた。

 だから私たちも余裕だと思っていた。

 でも、急激に魔物が強くなったとかでなければ説明ができないほど不可解な状況だ。


 それに魔物の数も異常だった。

 行きの倍? いやそれ以上いたかもしれない。

 ただ夢中に狩ってきたため正確な数などはもはや覚えてはいなかった。


 普通は階層が浅くなっていけば魔物は弱くなっていく。

 このダンジョンも例外ではない。


 だけど、今回は9階層から5階層まで来ているのに全然魔物は弱くならなかった。

 むしろ私たちの疲労が増すに従い魔物は強くなっているようにさえ感じられる。


「少し休憩しましょう」


「あぁ仕方がない。ここを乗り越えれば4階層だ。そこまでいけば一気に魔物は弱くなるからな。あと一踏ん張りだ」


「キッドお前の剣はまだ大丈夫なのか?」


「うるさい。お前の剣こそずっと同じの使って……なんだそれは」


 キッドがアイザックの剣を見ながら驚く。

「何がだ。これは普通に街の武器屋で買ったものだがかなりいい剣だぞ。全然錆びないし刃こぼれも少ない」


 アイザックの剣はただの武器屋で買った剣だった。

 鉄の剣だと言っていたが血のりのキレもよく刃こぼれもせず王都にきてたまに買いなおしていたがそれほど高くない。


「お前……おいっそこの女の杖も見せて見ろ」


 エミーとカラも杖をキッドに渡す。


「あぁなんてこった。俺はこんな馬鹿たちにつき合ってこんなところまで来ていたなんて。ってことは……」


 今度はキッドがアイザックの防具を調べていく。


「お前ら本当に知らないんだな」


「だから何がだよ!」


「お前らあの使用人から加護を与えられて基礎能力をあげてもらってたんだよ。道理で3年なんて短い間にS級パーティーになれたわけだよ」


「なんだよカゴって? 俺たちは個人の実力でここまで駆け上がって来たんだよ」


 アイザックが切れ気味にキッドへ詰め寄る。


 ロックは常に小さな頃から3人の弱点を見つけ強化する手伝いをしてくれていた。

 たしか過去にも魔法の威力が上がらないと悩んでいたエミーの杖にロックが何かをしたあとに急激にエミーの魔法の威力があがった。あれがもしかして……。


「お前ら、加護を知らないのか? 本当の馬鹿なのか? 剣馬鹿、魔法馬鹿、回復馬鹿。わかったよ。お前らみたいな馬鹿をあの使用人が上手くサポートすることでこのパーティーはやってこれていたんだよ」


「はぁ? 知らねぇし」


「あれ? 前にロックがアイザックに籠がうんたらかんたらって言っててアイザックブチ切れてなかったっけ?」


「あっ? あれはあいつが聖獣も捕まえていないのに籠をつけるだか、作るとかなんとかって言ってたから、そんなことを言っているなら魔物の1匹でも仲間にしてこいって怒鳴り付けてやったんだよ。あの馬鹿本当に使えない。あいつがさっさと死ななければもう少しマシだったんだよ」


 アイザックの言葉にエミーとカラはお互い息を飲む。

 ロックを見殺しにしたのは私たちであって、そのきっかけを作ったのはキッドなのだから。


「お前ら本当にバカだな。それは籠じゃなくて加護だよ。つまり使用人の魔力によってお前らは基礎力を向上させられ守られていたってことだよ。お前ら自分で武器や防具の手入れなんてしたことないだろ」


「それは全部ロックがやってくれていたから」

 エミーはすでにキッドが何を言いたいのかわかっていた。


「そうだろうな。お前らの装備には俺が見ただけで防汚、衝撃耐性、魔法耐性、それに各種の能力アップ……説明するのもめんどくさい。お前らの装備はよく見れば中流の冒険者の装備なんだよ。手入れがきちんとされ使い勝手を優先しているのかと思っていたがそうじゃない。それらは加護を与えられ武器や防具の力を底上げした上で、お前らの基礎能力まで上げていた。つまりあの使用人がいないお前らはC級冒険者ってことだ。しかもあの使用人はそれをわからないように偽装まで施してやがる」


 装備には基本付与魔法といって付与士が何かの耐性を向上させたり、基礎力を少しあげるようなものがあり、それがメジャーだった。でも、グラエラのメンバーには付与よりも上級の加護がつけられていた。


 加護は付与と違いその加護を与えるものが魔力を消費することで付与よりも威力を高めることができる。永続的に使用できる付与よりも効果時間は短い代わりに加護を与えたものがずっと側にいることでその効果はほぼ永遠に続く。


 ロックは全員の願いを叶えるために自分の魔力で周りの力を向上させるようにつとめ、ずっと一緒だと思っていたからこそ加護を与えていた。

 ただその意思はまったく伝わっていなかったが。


「うっうるさい。誰がC級だ!」


 アイザックにとってロックはすでに邪魔な存在になっていた。

 いつも村ではロックと比べられ、自分には永遠に勝てないと思っていた。

 だが、職業を聞いたあの日からすべてが変わったと思った。


 聖獣なんて見つからなければいいとずっと思っていた。

 そうすればあいつは才能も何もないただの凡人なんだからと。


 できる限り実戦から外し、装備の整備や対外への交渉など面倒ごとを押し付けていた。

 それはアイザックの劣等感を隠すためだった。


 心の底ではロックの優秀さに気が付いていたのかも知れない。でもそれを直視する勇気はなかった。


 パーティーの中でロックの地位はどんどん下がっていく。

 エミーだけは最後まで反対していたが、カラは途中から興味をなくしたのかロックに対して助けもなにもしなかった。


 すべてアイザックの思い通りだと思っていたのにまた障害がでてくる。

 なんでこうも思い通りにいかないんだ。

 やっと目障りだったあいつが目の前から消えたのに。


 あとは派手にS級パーティーとして登っていくだけのはずだったのに。

 俺だって頑張っていた。

 そうアイザックは思いながらあまりの悔しさから地面を叩きつける。

 アイザックが何か悩んでいる横でキッドは状況の整理をしていた。

 

「おい聖女お前あと何回、回復できる?」

「感覚的に全員に1回から2回くらいかな?」


「魔法使いは?」

「私は節約すればそれなりに」


「そうか。わかった」


「俺はあいつなんていなくてもなんとでもなる。絶対に俺は認めないぞ」

「あぁ、それはいいがオレンジアントの群れがいる」


 キッドの視線の先には5匹ほどのオレンジアントがいた。

 先ほどまではいなかったはずだが、アイザックの声に反応したのだろう。


 4階層までの階段はあと少しのはずだった。

 回り道をしても他の群れに見つかる可能性が高い。


「聖女。全員を回復させろ。そのあとアイザックが先頭、次が魔法使い、聖女で俺が殿を務める。そしたら一気に駆け抜けるぞ。この階を抜ければあとはかなり楽になる」


 キッドの提案を受けカラは全員を回復させる。

 これでカラの魔力はあと少しだ。

 もう何度も回復魔法は使えないだろう。


「よし行くぞ!」

 キッドの掛け声で順番に駆け抜けていく。途中でオレンジアントに気が付かれるがこの距離なら全員が逃げ切れるはずだ。そう誰もが思った時、カラのローブが赤く染まる。


「やっぱり足手まといから犠牲になってもらわないと。俺はこんなところで死ぬわけにはいかないからな。それにこっから上は回復とかいらないからな」


「あっ……」


 顔から地面に転がったカラの横をキッドが走り抜ける。

 アイザックもカラの声を聞き一度後ろを見るがそのまま走り抜けた。


 エミーだけは一瞬ためらい手を差し出そうとしたが、その手をぎゅっと握り走り出すともう振り返ることはなかった。


「ねぇみんな嘘でしょ。お願い助けて 私を置いていかないで」


 その声に反応するものは誰もいなかった。


 カラは必死に這いつくばり壁を背にして座るが、オレンジアントがギュルギュルと気味の悪い音をだしながらカラを飲み込んでいった。

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