食レポドラゴン
「空の旅はどうだった?」
「はいっ! めちゃくちゃ気持ちよかったです。あんなに速く移動できるなんてビックリしました」
「それは良かった。これからも箱庭の中を移動するときはワイバーンたちに頼むといいよ。戦闘の時とかは慣れているパトラたちが優先になるけどね」
「それはもちろんです。もう少し乗ってきてもいいですか?」
「あぁ、ワイバーンたちよろしく頼むよ」
「ロックさんありがとうございます。ワイバーンくんよろしくね!」
エミルはお礼を言うとそのままワイバーンに乗り空へと飛びあがった。
『若いっていいな。どんなことでも楽しく思えて』
「紅桜は結構な年齢だろうからな。段々と色々なことに慣れてくると新鮮味も減ってくるんだろうな」
『まぁな。でもここのご飯はとても美味くていつも楽しみだ』
ちょうどそこへパトラがご飯を呼びにものすごい勢いで走ってきて、そのまま抱き着いて来た。
「パパー! ご飯ができたよー」
「ありがとう」
パトラの声を聞きつけたラッキーが大急ぎで戻ってくると、俺の股の下からすくい上げるように背中に乗せる。
『紅桜も急いでいくぞ。ご飯だ、ご飯!』
『食いしんぼうフェンリルだな。まったく……落ち着きというものを持ってもらいたいものだ』
そんなことを紅桜は言っていたが……。
食事の場所へ行くと、俺の目の前で美味しいと涙を流しながらご飯を食べている紅桜がいた。
「少しは落ち着いて食べろ。誰も紅桜の食事を取ったりしないから」
『本当か? いやこんな美味しい食べ物がいっぱいあるわけないからな。急いで食べなきゃなくなっちまう』
別人? 別龍? にでもなったのではないかというほど、紅桜は勢いよくご飯を食べる。
『すごい食べっぷりだな』
「ずっと水晶の中に入っていて、その前は自分で魔物を狩っていたわけだから、まともな料理を食べたことないだろうからな」
『ロックさん、これのおかわりを頂いても? なんの肉かわかりませんが滴る油にほどよく弾力のある肉質、そして絶妙なこのタレ。これで世界征服を狙うつもりですか? 全世界のドラゴンはこの肉の前にひれ伏すこと間違いありません』
紅桜をこれからは食レポドラゴンと呼んだ方がいいだろうか。
ただのオーク肉をここまで絶賛しながら食べられるドラゴンもなかなかいないと思う。
「ロックさん、そろそろお肉を仕入れにダンジョンへ行きたいんですが、行ってきてもいいですか?」
シャノンが可愛いエプロンをつけたまま相談してきた。
材料はすべてパトラの糸のはずなのに、色々なパターンのエプロンがある気がする。
ガーゴイルくんが色違いのエプロンを着ていたような……。
頭の中でガーゴイルくんのエプロン姿がでてくる。
思わず苦笑いをしてしまった。
いやいや。
それにしてもダンジョンか。
肉を得るだけなら近くの森の中でもいいが、段々と人数が増えていることで俺たちが狩りをすることで生態系を変えかねない。魔物はどこからともなく湧いてくるので平気と言えば平気だけど、俺たちが狩りすぎると他の冒険者の稼ぎが減ってしまうことにもなりかねない。
稼げなくなれば冒険者は他の土地へと移ってしまい、いざという時に人手不足になってしまう。
それなら……。
「いいよ。せっかくだから全員でダンジョンへ行く?」
「このメンバーですか? もう、ロックさんいったいどんな魔物を狩りにいくつもりですか?」
シャノンが少しひきつった笑顔を向けてきた。
たしかに過剰戦力な上に、ラッキーは未だに魔物がはじけ飛ぶことがあるから、まともに魔物を狩りに行くには向かない。
「僕もちょうど欲しい肉や薬草などもありますし、それなら第一回おすすめ食材ゲット選手権をしましょう。これなら僕も役立てそうです」
ガーゴイルくんがそう嬉しそうな顔をして提案してきた。