キッドは勝ち誇った顔を崩さずカールフェルトに声をかけた
「いつも、いつも、いつも邪魔ばかりしやがって! 俺になんの恨みがあるというんだ!」
「お前にダンジョンに置いて行かれた恨みだな。あっでも結果的にラッキーと出会えたことを考えれば感謝してもいいんだけど、殺されそうになったことは無理だな」
「わかった。ロッカくん交渉しようじゃないか。俺たちはこの村から手を引く。だからスイジュ国と戦争ゲームをするのを見逃せ」
「それって結局他の国境沿いの村が狙われっるってことだろ?」
「バカだな。どこの誰かもわからない人間が死んだところで気にする必要はないだろ」
「そうだとしても、悪の元凶を見逃す必要はないだろ。ここでお前は捕まる運命なんだよ」
「それは無理だな……時間稼ぎの雑談に付き合ってくれてありがとう」
どこから現れたのか、俺たちを取り囲むようにスイジュ国の連中が数百人とやってきていた。
村長の家で会ったカールフェルトや杖の男の姿もある。どうやら、俺の警告は聞いてもらえなかったらしい。人間は変えることはできないのか。
本当に行くところまで行かないとダメなのかと思うと少し寂しくなる。
「ロッカくん残念だったな。数は力だ。君がここで反抗すると君の仲間は蹂躙されるぞ。どんなに頑張っても疲労はでてくるからな。お人よしのロッカくんにはそんなことできないだろ? カールフェルト、さぁロッカくんたちを捕まえるんだ」
「もう、ここまでだな。そこまでスイジュ国が戦争をしたいなら俺が相手になってやる。そのかわりどうなっても知らないからな」
自分の身体から力が溢れ出るのがわかる。
再三警告で終わらせてきたが、それではわかってもらえなかったのだ。
「どうせはったりだ! ほら、早く魔法で一気に攻撃しろ! 魔導スイジュ国の力を見せてやるんだ」
キッドは勝ち誇った顔をしている。
できることならこんなことはしたくなかった。
「エミル、村長とマルグレットを助けてやれ。ドモルテ、全範囲を加減なしですべて滅ぼせ。ラッキー俺たちとアネサ村の連中を守れ。自然災害の怖さを教えてやる」
仲間たちに指示を飛ばす。
「ロックさんダメです。それじゃあ、結果的にあなたが戦争の引き金になってしまう」
ドブが一生懸命止めてくるが、もう結局これ以外ない。
それに戦争にはならない。そんな中途半端なことはしないからだ。
カールフェルトが無言でキッドの側へと寄っていく。
いいぞ。いつでも来い。
せめて最初の1発くらいは受けてやろう。ただ、それを放った瞬間……地獄でもなまぬるいと思わせてやる。
「さぁカールフェルト、君がこの世界を作るんだ」
キッドは勝ち誇った顔を崩さずカールフェルトに声をかけた。
「もちろんだ。覚悟しろな!」
「はぁ?」
カールフェルトはキッドの横までくると、ゼロ距離からキッドの顎に一撃をいれ、そのまま持っていた剣を叩き落とし、流れるように両手を後ろ手にとって組み伏せてしまった。
「何をするんだ。敵が違うだろ! お前は俺の仲間だったはずだろ」
「はい、でも人間って変われるんですよ。スイジュ国に戦争賛成派なんて一人もいませんよ。あなた方がどんな兵器を作ったのかは知りませんが、圧倒的な自然の力には勝てないんですよ」
カールフェルトが俺の方を見ながらニコニコと作り笑いを浮かべてくる。
子犬が助けを求めてくるような、そんな必死さを感じた。
「キッド残念だったな。数の力でも勝てないようだな。それともこれが作戦か?」
「クソったれが! なんでお前は俺の邪魔ばかりするんだ」
「別に邪魔をしているつもりはないよ。お前は人の命を消耗品として考えているが、俺はできるだけ人を助けたいと思っているってだけだろ」
「そんな甘い考えで生きていけるわけがない! 世界は弱肉強食でできているんだ」
「そうだな。そういう一面もあると思うが、これが結果なんだろうな」
キッドは今地面にひれ伏し身動きができないように完全に抑えられている。もし、キッドの言う弱肉強食が正しかったとするなら、今こうなってはいないはずだ。
「ロックさん、この度はご心配をおかけしまして申し訳ありません。スイジュ国はロックさんともこの国とも一切戦争行為をするつもりはありませんので、ご安心ください」
そうあいさつをしてきたのはカールフェルトだった。
彼はキッドの拘束を部下に任せると、俺の前で跪き頭を下げてきた。
「頭を上げてください。でも、スイジュ国も学習してくれたようで良かったです」
「いや……本当に申し訳ございません。ドモルテ様とラッキー様にはご迷惑をおかけしました。あのようなことは……二度とありません」
小刻みに震えるカールフェルトの肩越しにラッキーとドモルテの方を見ると、二人は急に目を背けた。
やっぱり何かやらかしてきたようだ。
「そうしてくれるとありがたいよ。ただ、今回のこの作戦を計画したのは全部このドブって男だから、何かある場合には今後こいつに連絡をして欲しい。なぁドブ」
「えっ……はい」
ドブは逃げられないと思ったのか諦めて同意した。
俺たちをはめようとしたのだから、これくらいは責任をとってもらうしかない。
俺たちが前面にでていいことはない。今回は対応したが、別にこの国の代表というわけではないのだから。
あとをドブに任せて振り向くとマルグレットと目が合った。
「ヒャッハハ……ロック予想外に早い帰りだったな」
「本当だよ。少なくとも1年くらいはこないと思ったら2週間もたたずに戻ってくることになるとは。でも無事でなによりだよ」
「いや、でも助かった。ギーチンたち若い者は崩れていないトンネルを使って無事に逃がせたんじゃがの……」
俺とマルグレットが話をしていると、家の中から武器を持ったギーチンがあらわれた。
「この野郎! アネサ村は俺たちが守るんだ……あれ? なんでロックさんがここに?」
ギーチンを筆頭に村のあちらこちらから、村人たちが一斉に現れた。
どうやら女性と子供をコロン村に置いて村を奪還するために戻ってきたらしい。
「ギーチン、もう終わったよ」
「ありゃ? まじですか……終わったのか」
キョトンとした顔でまわりを見渡すギーチンを見てみんなで笑いあった。