「そうね。あれは……話し合いだったわ」白目
ギーチンをはじめとして、村人たちは今までの行いを反省しうなだれていたが、いつかエミルが帰りたいと思える村にすると言って、なんとか気持ちを入れ替えようとしているようだった。
その後、俺たちは最初の約束の雪結石をもらった。結果的にドラゴンがいなくなったのでいらないと断ったが、それはあくまでも結果だからということで受け取って欲しいとのことだったのでもらっておくことにした。エミルは村の人から謝罪と改めて残留するように説得されたが、俺たちと一緒にグリズと合流することになった。
マルグレットはこの村に残るので、たまにはここに帰ってくることになる。その時には変わってくれていることを祈る。
今後はマルグレットも村の一員として差別をしないでいくとギーチンは宣言をして、他の村とも積極的に交流をはかるとのことだった。
コロン村にもドラゴンがいなくなったことを話して、どうしていくかを考えていくらしい。幸いにも名物はまだあるので、それが採れるうちはここで生活していくことができるだろう。その間に何か考えればいい。
コロン村の人間の大半はドラゴンの魔力で雪が積もらないことを知らなかったので、その辺りもどうするか話す必要があるとのことだった。
ただ、箱庭産の可燃石も大量においてきてやったので、しばらくは大丈夫だと思う。
そうして、俺たちはグリズと合流して帰ることになった。
帰りの道中グリズにスイジュ国のことやドラゴンのことなども話したが、グリズは馬車の中でずっと雪結石を見ながらニヤニヤしていた。
彼女に会えることや色々期待しているのはわかる。だけど、こんなこと言っては悪いが少し気持ち悪いくらい笑顔だった。いきすぎると引かれるから、軽く抑えるように伝えたが愛は盲目……多分無理そうだ。あまりに期待しすぎてフラれないといいけど。
スイジュ国に行ったラッキーとドモルテは、大量に魔石と魔道具、武器などを謝罪の品として持ってすぐに帰ってきた。
お金は復興に使うだろうからと、主に武器や便利な道具などを持ってきたらしい。
武器庫を開けさせたらしいので、戦争をするにしても大変だろうと言っていた。もらってきた武器はオレンジアントたちに任せて地下で保存してもらうことにする。
変わった魔剣などもあるとのことで、シャノンやメロウたちにそれぞれ見てもらおう。
「ロック、安全に話し合いですんで良かったわ。予想外に話が通じる相手だった。ねぇラッキー」
『そうだぞ。本当に話し合いがスムーズだった。そうだよな、ララ』
「そうね。あれは……話し合いだったわ」
ラッキーの尻尾がピクリとも動かなかったので詳しく聞いてみると、少し更地が増えただけとのことだった。
彼らには力の違いをあれだけ見せても無駄だったということだろう。
それか、あまりの出来事に信じられなかったんだろうな。自分の基準では理解できないことはよくあるものだ。
もう自業自得としか言いようがない。ラッキーたちには面倒な交渉をさせたと思う。
ただ、ドモルテは予想外に面白い魔道具が手に入ったと喜んでいたのでよしとする。
魔導スイジュは道具だけをみたらいい国だったらしい。ただ、発展しすぎたせいで他国を舐めすぎてしまったようだが、今後は心を入れ替えるだろう。入れ替えてくれると思いたい。火の粉が降りかかるなら振り払うだけだけど。
馬車に揺られながら、行きよりもかなり速く帰ってきた。
雪がなかったことと、グリズがはやく帰りたくてずっとソワソワしていたから、みんなが気を使った感じだった。
まぁ、グリズとしては人生をかけた告白をしたいわけだから、友人としてそこは応援してやるしかない。
俺たちがもらった雪結晶は、加工前のものなので街に戻ってから加工をするしかないが、グリズのツテで俺の分も一緒に加工してもらうことになった。あくまでもグリズのついでなので完成まではしばらくかかりそうだ。
雪結石は加工前でも白色にエメラルドとなんとも見る人を魅了する怪しい魔力を放っていた。
これを身につけるだけで、どれほど魔力がなくても寒さ対策になるのだから、冷え性な人からすれば嬉しいだろう。
ブランドンの街に戻り、雪結石の加工を依頼するとグリズの分はすぐにできるということだった。
グリズは行く前からもう既製品を買えなかった時ように加工する職人を抑えていたらしい。
どれだけ楽しみにしていたのか。こういうことは手際がいい。
アネサ村を助けるためとはいえ、そんなグリズを待たせたのは少し悪いことをしてしまった。
グリズの分は翌日の朝にはできるとのことだったので、グリズはそのまま貴族の女性への手紙を書き、翌日の夕方にデートに誘った。
あまりの急展開だったが、グリズにしたらずっと待っていたのだから、何を言っても聞く耳は持ってもらえなさそうだった。
「ロック、緊張して吐きそうだ」
「それもいい経験だよ。俺たちはついていけないが、頑張って渡して来い」
「わかってる。勇気をくれ」
「いいぞ。ラッキーと紅桜どっちと戦いたい? それとも水中戦ならメロウでもいいし、魔法戦のドモルテでもいいぞ。あっ複数と戦いたいならパトラたちでもいいな」
「そうだな。そのメンバーと戦うことを考えたら、告白なんてたいしたことない気がしてきたぞ」
「いくらでも力を貸してやるからな」
「大丈夫だ。告白するまでに命がいくつあっても足りないからな」
「回復は任せておけ」
「怪我する前提じゃねぇか。そもそも一発くらったら怪我ですまない可能性があるメンバーだからな」
「そんなことはないよ。ちゃんと加減してくれるから大丈夫だ」
「それはロックだから大丈夫なんだよ。はぁ、でも少し緊張がとけた。頑張ってくるわ」
「そんなに緊張するな。頑張るんじゃなくて告白は楽しんでこい。ガチガチに緊張したグリズから告白なんて受けても相手も緊張しちゃうだろ」
「それもそうだな」
グリズのニカッとした笑顔は少しこわばっていたが、意外にいい笑顔だったと思う。
そして……グリズはできあがったばかりの雪結石のペンダントを持って告白へとむかった。
幼馴染のS級パーティーから追放された聖獣使い。万能支援魔法と仲間を増やして最強へ!
3巻が2021年12月24日(金)に発売になりました。
いよいよグリズがドキドキの告白へ……!
【みてみんメンテナンス中のため画像は表示されません】
ロック「どんな話し合いだったんだ?」
ラッキー『安全、安心な話し合いだったぞ』
ロック「更地が増えたんだろ?」
ラッキー『安全……あっ安心な……』
それ以上聞くのは諦めたロックだった。