姫
なぜかララが一番威張って命令していたけど、ドモルテとラッキーがいれば問題ないだろう。
ギーチンたちは、パトラたちと一緒にソリで滑りおりてもらった。
今まで娯楽が少い村だったからかく、予想外に楽しんでもらえたようだった。
ソリの見本が欲しいというので、パトラに言って村用にいくつか渡してあげた。
山頂まで持っていくのは大変だけど、なんとかするだろう。
「ギーチンはこれからどうするんだ?」
「俺たちはこの村でどうやって生活していくかを考えるよ。このまま外から切り離されたまま生活するのもいつかは限界がきていただろうからな。ロックさんのおかげで幸いにも死人はでなかったし。本当にありがとう」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。可燃石の使い終わったあとの粉を使うと雪が積もらないらしいから。これを使ってくれ」
箱庭からドモルテが使い終わった可燃石を大量にだしてもらう。
今までのドラゴンのエネルギーと比べたら、少し面倒かもしれないが、生きていくにはなんとかなるだろう。
「エミルはどうする? このまま村に残るか?」
「僕は一緒に行きたい。おばあちゃん……」
「ヒャッハハ行ってきな。もうこの小さな村に縛られる必要はないんだから。思う存分世界を見て回って、世界の広さを知ってきな」
「イバンは女の子だったのか?」
ギーチンもどうやら知らなかったらしい。
外見だけ見れば男の子だと言われても納得してしまう。
「そうらしいぞ」
「エミル……エミル……まさか、氷雪の一族のエミルか!?」
ギーチンはエミルの前で片膝をつき、左の腕を胸の前におく敬礼の姿をとった。
他の雪人も同じように敬礼の姿をとる。
「今までのご無礼申し訳ありませんでした。マルグレットなぜ今までこんな大切なことを秘密にしていたんだ」
どういうことなのだろうか。
彼らの反応についていけない。
「ヒャッハハ、聞かれなかったからな」
その答えは……マルグレットも相当性格が悪そうだが、何かあるようだ。
「聞かれなかったからって、エミルに俺たちは……」
「知らないから冷たくしていいなんて理由はないんだよ。ヒャッハハ、この子はもうこんな小さな村に縛り付けちゃいけないんだ」
「なんてことを……」
ギーチンがうつむいてしまったので、マルグレットに話を聞いてみることにした。
「いったいどういうことなんだ?」
「ヒャッハハ、エミルはこの村の雪人たちを導いた王家の生き残りなんだよ」
「ん? 王家の血筋なのになんで身分を偽っていたんだ?」
「氷雪の一族は氷の妖精との子孫でもの凄い魔力を持っているんだ。だけど、こいつらの親の世代の時に王家だという理由で奴隷のように魔法を使わせまくっていたんだ。そこのクソ村長一族を筆頭にな」
「ちっ違う! あれはやってくれるというからお願いしただけだ」
「一般的な王家の一族っていうのは、自分が高い位置にいて舌の人間を使う普通だけど、ここでは王家はていのいい奴隷みたいなものだったんだよ。この子の両親はこの村の連中にいいように使われて死んでいったんだ。スイジュ国とは違って山を隔てたこっち側では、魔法が使える者は全体に奉仕するのが当たり前だと思われているからね。エミルの両親は死ぬ直前……隠し子だったこの子をワシに託して死んでいったんだ。この村から旅立てる時まで本当の名前を隠したままにしてくれって」
マルグレットの話に補足をいれるようにギーチンが話をしてくれた。
「エミルって名は雪人が信仰していた氷雪の一族の跡継ぎの名前なんだ。だけど、エミルの両親が亡くなって跡継ぎもいないものだと思っていたのに……。俺たちの目の前にずっと姫がいたのにもかかわらず、俺たちはそれを見向きもせずに、むしろ仲間外れにしていたってことなのか」
「ヒャッハハ、途中でどこかで気がつけばこの村の未来も変わっていたかもしれないがな。自分たちのことしか考えていなかった以上、仕方がないだろう」
「今から……今から戻ってもらうわけにはいかないだろうか。なんとか償いがしたい」
「ヒャッハハ、ずいぶん調子がいいじゃないか。どうするエミル?」
「僕は……やっぱりロックさんたちと世界を見てきたい。この村にはいい思い出がないっていうのもあるけど、今さら僕が氷雪の一族だと知ったところで、受け入れられない人間がでてくると思うし」
「そんな……俺たちはなんて取り返しのつかないことをしてしまったんだ」
ギーチンはうなだれ、あれだけ強気だった村長の目からは涙がこぼれていた。
「行ってきなエミル」
「うん。行ってくるね」
落ち込む二人の姿とは違ってエミルは本当に嬉しそうだった。