ドラゴンの過去2
男と過ごした時間は、そんなに長い時間ではなかった。いや、ドラゴンの時間的な感覚と人間の寿命は全然違うからなんとも言えないが、それでもきっと短い時間だった。
だけど、その時間は俺たちのとって最高の宝物で、最低の思い出となった。
そして、それは唐突に終わりを告げることになる。
その男の仲間たちが俺たちの住処にやってきたんだ。
人間たちへの警戒心がなくなっていた俺たちは新しい人間たちを受け入れようとした。
男の仲間たちは俺たちに強い酒を振舞い、楽しい夜になるはずだった。あれだけの化け物たちがみんな笑顔を浮かべていたんだ。それが最後の夜になるともしらずに。
俺は、まだ若いドラゴンで酒にも強くなかったおかげで、早々に眠ってしまった。それのおかげで俺は酔いが早く覚め、彼が逃げろと叫んでいる声で起きることができた。
わかるか。信用していたものの仲間がいきなり敵へと変わり、襲いかかってくるんだ。
人間なんて簡単に殺せる種族だと思っていた。だけど、その男と過ごした時間があまりに楽しすぎて俺たちの判断を鈍らせたんだ。
その男と過ごした時間は本当に幸せだった。
俺たちドラゴン相手に本気で喧嘩した時間。
釣りに行って一匹も連れなかった時間。
夕焼けを見ながら一緒に森の上を飛んだ時間。
俺の恋を叶えるために花をとりに行った時間。
他の種族と酒を飲み交わした時間。
夢を知った時間。
毒キノコを一緒に食べて腹を痛めて苦しんだ時間。
夢中で走り回った時間。
一緒に泣いた時間。
一緒に笑った時間。
一緒に驚いた時間。
一緒に怒った時間。
一緒に苦しんだ時間。
飽きることのない一緒に過ごした時間は宝物だった。
俺たちは種族を超えて友情を育んだはずだった。
だからこそ、その男の仲間が俺たちを襲うなんてことを信じられなかった。何かの間違いだと信じたかった。
でも、そんな彼が連れてきた奴らは俺たちを酔わせたあと、どんどん捕まえて殺したり皮をはいだりしていった。どうやら彼にはそのことを知らされていなかったようだが、彼も俺たちも人を信じられず絶望するには十分だった。
今思えば彼らは人間だとは思えない強さだった。
あの頃の俺も未熟だったが、俺の攻撃なんて全然効かなかった。
一緒に仲良くなった種族はどんどん捕まるか、殺されていった。
俺は人間たちの話し声を聞いていた。
「さすがクヌムだな。こんなに楽に邪魔なドラゴンを狩れるとは思わなかったよ」
この時初めて彼の名前がクヌムだということを知った。
「約束が違うじゃないか。ここには友好的に話を進めるって」
「あぁそのつもりだったんだけどな。方針が変わったんだ。この世界をもっと面白くするにはパワーバランスが大事なんだよ。こんなところに世界のほとんどの戦力が集まっているなんて面白くないだろ。平和な物語なんて誰が望むんだよ。混沌としているからこそ勇者が生まれ、魔王を倒す話に民衆は感動するんじゃないか」
「そんなものは誰も望んでない。俺は混沌よりも小さな幸せを日々感じていたい。せっかくみんなの仲良くなれたのに、なんでこんなヒドイことをするんだ」
クヌムと他の人間たちは言い争いをしていた。
まだ酒の抜けない頭でクヌムは俺たちを助けようとしていることがわかった。
だけど、俺は仲間が狩られていく中で戦わなければいけない。
自分をなんとか奮い立たせて声をあげる。
『グヌァァ! なんでことを!』
クヌムは俺が爪をだし、攻撃しようとしているのを見て、ゆっくりと首を振った。俺はその意味をすぐにわかされることになる。
彼の行動に目を取られているうちに、俺よりも強かったドラゴンがクヌムに襲いかかっていったが、横にいた男によって首を切られ一瞬で屍へと変わった。
できればそんな情景を信じたくなかった。
仲間だと思っていた男は、俺たちの仲間ではなかった。
初めて感じた死への恐怖。
気が付いた時には俺はわけもわからなく、そのまま空高く逃げ出した。
他の魔物たちも、無謀にも挑む者もいれば、勝てないとわかりその大陸から逃げだした者もいた。
それから、世界は混沌としたものへと変わっていった。世界最大級の戦力が集まっていた場所から世界中に自分たちの新たな故郷を作ろうと沢山の魔物が世界中に散らばっていった。人間がまだ未踏の土地は沢山あったが、世界中で生態系が変わっていった
元々好奇心の強かった俺は、世界中をまわりながら他の魔物がどうしているのかを聞いてまわった。
どこかで自分の居場所を探していたんだと思う。