ドラゴンにかけられた呪い
俺たちはあっという間にスイジュ国が見渡せる山頂へとやってきた。
ここなら村に被害が広がることはない。
ドラゴンもバサバサと大きな羽を羽ばたかせ、頭を押さえながら飛んでくると、そのままいきなり炎弾を撃ってきた。
「ラッキー」
『あいよ』
ラッキーが避けようと動くが、ドラゴンは元から俺たちを狙ったといよりは、スイジュ国の山、田んぼ、畑などの領地に向かって放った。
激しい閃光と爆風が俺たちを襲い、目の前から一つの山が消えた。決して例えではなく本当に山一つが消え去ったのだ。
「ラッキー……」
『あぁ戦うにはなかなか骨が折れそうだな』
「でも、戦わないと。僕が封印しなくちゃ」
エミルはそう言っているが……そもそも戦う必要があるのかという問題がある。
先ほどから俺たちは相手にされていない気がするのだ。
「よし、まず話し合おう。ドラゴンさん、もし会話ができれば俺たちと話し合いませんか?」
無理かと思ったが、ドラゴンは俺の声に応じてくれる。
『なんだこの野郎。さっきから目障りにちょろちょろいやがって。お前らの相手している暇はないんだよ。叩き潰すぞ』
やっぱり俺たちは相手にされていなかったらしい。
「申し訳ありません。なんで暴れているんですか?」
『こないだから俺の身体の中に変な魔力を入れやがった奴がいるんだよ。まじで気持ちよく寝てただけなのに、寝起きが一番イライラする。憂さ晴らしに殺すぞ下等生物』
あぁー聖獣使いの能力のおかげで言葉は通じるけど、意思疎通できないタイプかもしれない。
それにしても変な魔力だって?
「ラッキー、ドラゴンに変な魔力を入れた奴がいるって言っているけど、なにかわかるか?」
『あぁシャノンと同じ始祖の魔人の呪詛がかけられているぞ』
「まじでか。周りがどんどん死んでいく呪詛か?」
『いや、あれよりも質は低い。というかあれと同等に強いのをかけたんだろうけど、ドラゴンの魔力で消されているような感じだな。まぁ嫌がらせするには十分だろうけど』
ドラゴンがまたスイジュ国の田園畑の方に向かって火球をぶっ放した。
わざわざ街を避けて放ってはいるようだ。
そんなドラゴンがいるのか? 偶然だろうか。
先ほどとは違い、今度はぶつかった瞬間に地面の表面を広がりながら炎が走っていく。
「ドラゴンさん、もしかしたらその変な魔力を払ってやることができるかもしれないぞ」
『お前らみたいな下等生物にできるのか? あっそれよりも、さっき俺の翼切り刻んでくれたな。せっかくこのキレイな翼に傷が残ったらどうしてくれるんだ。まずはこの落とし前どうつけるんだ? やっぱり殺すか?』
「傷は治してやるし、このままどこかに去ってくれるならその呪いも解いてやるから、それでチャラにしてくれないか」
『あぁめんどくせぇな。寝起きが一番イライラするんだよ。おぉじゃあめんどくせえから早くやれ。できなければ殺す』
ドラゴンはその場にゆっくりと横になると眠そうに大きな欠伸をした。
雪の上をキュッキュッと踏みしめ近づいていくと、改めてドラゴンの大きさや迫力に驚かされる。
一枚の鱗の大きさが俺の手のひらよりも大きい。
「ラッキー、シャノンの時と同じように手伝ってくれないか?」
『頭噛んで欲しいのか? 仕方がないな』
「やめい。あれ涎で大変なことになるんだからな。普通でいいよ」
『あいよ』
「少し触れるぞ」
俺がドラゴンに触れるとラッキーが頭の上に肉球を置いてくれ、魔力コントロールの仕方が流れてくる。
ドラゴンの魔力はやっぱり俺の思った以上に大きな魔力だった。俺一人ではこのコントロールは難しかったかもしれない。ドラゴンの中の魔力を探っていくと人との魔力の使い方が違うのか少し戸惑ってしまった。
だけど、上手くラッキーが誘導してくれる。シャノンのときよりも魔力量が大きいが魔力に慣れてしまえばあんがい操作しやすい感じだ。
探っていくとシャノンの時よりもより巨大な蠢く魔力を感じる。それだけドラゴンを縛るのに大きな力が必要だったということだろう。
だけど、ドラゴンの抵抗力も強いのかシャノンの時よりも以外と簡単に除去することができた。
「もう大丈夫だ」
『おぉー本当だ。スッキリした。寝起きのイライラに加えてあの魔力のせいで頭が上手く働かなくてな。翼を切ったのはこれで許してやろう』
「話せる奴で良かったよ。ただ翼も回復させてやれるだろうからこれを飲むといいぞ」
ドラゴンに回復薬を渡してやると今まで不快な顔をしていたのが嘘のようにスッキリした顔になった。翼も傷跡が残ることもなく回復した。
『それにしても、あいつらよくも人の身体に変なもの植え付けやがって』
「いったい誰にやられたんだ」
『あの国の……いや、どこかへ逃げやがった! ずっと嫌な感じがあったのに! 憂さ晴らしに滅ぼしてやってもいいが、もう俺が手をくだすまでもない。それにしてもまた静かに寝られる場所を探さなきゃだな』
「スイジュ国の中から操ろうとしていたってことか……それにしても、ドラゴンなのに意外と話が通じるんだな」
『あぁーそれはあんたが聖獣使いだからだろ?』
ドラゴンは当たり前のように聖獣使いの名前をだしてきた。