グリズとの再会
コロン村への道は本当に1本道だった。
途中、横道もあったが、足跡がついている場所だけを歩いて行くと、道に迷うこともなかった。どうやら結構頻繁に使っているらしい。
これだけ使われていたら、コロン村にもアネサ村の噂が流れるのも無理はない、かなりの頻度で誰かが行ききしているようだ。
「イバンはこの道も初めてなんだよな?」
「はい、あの村では嫌われているので、誰も外に連れ出してはくれなかったです」
一瞬なんてフォローしたらいいのかわからず、声がでなかった。
あの封鎖された狭い小さな世界の中で、自分だけが誰からも信じてもらえず、一人で生きていくのはどれだけ大変だっただろうか。
世界の広さを知っているからこそ、ダメなら別の世界を探せばいいと思えるが、知らないことを見つけるのも、自分から飛び出すのもなかなか難しいものがある。
「……それは、大変だったな」
「でも、おばあちゃんがずっと守ってくれていたから、村の中で一人大丈夫でした」
「おばあちゃんのことが大好きなんだな」
「はい。おばあちゃんは尊敬する魔法使いで、一番大切な家族ですから」
人の幸せを一概には決められないからなんともいえながい、まわりに沢山の人がいても孤独な人はいる。
だけど、たった一人とはいえ愛されている実感があって、人を愛せるだけでも、人生は全然変わってくるのだろう。
もちろん、すべての人から好かれることができればそれが一番だが、それができないのは自分自身の経験でよくわかっている。
雑談をしながら進んで行くと、コロン村が見渡せる少し、高台にでることができた。
下のコロン村からは直接見えない絶妙な位置にある。
こちらの洞窟も上手く偽装がされている。遠くから見たらここに洞窟があるなんてことはわからないだろう。半ば崖になっている場所を足元を確認しながら下りて行く。
ごつごつとした岩肌に苦戦しながらも、イバンとシャノンに手を貸してやりながら慎重におりた。
村の入ってすぐのところにグリズの大きな馬車が並んでいたので、まだ待っていてくれるようだ。
「思ったよりも早くついたね。それじゃあ最初にグリズを探そうか」
「ロックさんの友人の方ですか?」
「そうだな。親友だ。ロックだいぶひどいじゃないか。いきなりいなくなってしまうなんて」
声のした方向を見るとグリズが笑顔で立っていた。
「悪いことしたな。いやー俺もまさかこんなに時間がかかるとは思わなかったんだよ」
「まったく。それで何を楽しいことをしてきたんだ?」
ニマニマと笑顔を浮かべている。
まるで俺が何か問題を起こしているような感じだが、決してそんなことはない。
決して……そんなことはないと思いたい。
「まったく楽しくないよ。あっ紹介する、こっちが商人のグリズで、こっちがアネサ村で知り合ったイバンだ。イバンはこんなに小さいのにすごい魔力をもっているんだ」
「ロックの親友グリズだ。よろしくな。欲しいものがあれば金次第ではなんでも準備してやるから気軽に声をかけてくれ。ロックの友人割引で安くしてやるからね」
「ありがとうございます。アネサ村のイバンです。よろしくお願いします」
イバンは緊張しているようだが、俺の時とは違ってちゃんとあいさつができている。
いろいろ話したいことは沢山あったが、まずはこれからだ。
グリズに雪結石の原石を渡してやる。本当は加工したものを渡してやりたかったが、これはこれで自分で自由に変化させることができるのでいいだろう。
きっと加工についてはグリズのツテでできるはずだ。
原石を見せた途端、目を大きく開けグリズが満面の笑みで抱き着こうとしてきたが、華麗に避けさせてもらった。気持ちは嬉しいがちょっと怖い。
これを手に入れてすぐに帰ってくるはずだったが、随分時間がかかってしまった。
「なんだよ。俺の熱い抱擁を受け取ってくれないのか?」
「悪い、グリズの満面の笑みが一瞬怖くてとっさんに避けてしまった」
「ついテンションがあがってしまった。でも本当に買ってきてくれたんだな。いくら払えばいい?」
「そうだな……相当高いぞ」
わざと一瞬間をつくるために一呼吸をおく。
元々がもらったものだからな。値段は……。
「もちろん、いくらでも払うぞ」
「そうだな……対価はしっかり告白して無駄にしないことだな。もちろん成功するのを祈ってはいるが、成功するためにはチャレンジしないと始まらないからな」
「はぁ? ロック、これの末端価格いくらだか知ってるのか?」
「末端価格って、危ない薬みたいな言い方だな。いくらで売られているかは知らないけど、友人の恋は応援するのが普通だろ? どうであれ、その大きさならいくつかとれるだろうから、あまったら加工して返してくれてもいいぞ。まぁとれればだけどな」
「ロックさん、加工したら誰かにあげるんですか?」
「そうだな、何個できるかわからないけど……俺も渡したい人がいるんだ」
「そうなんですか……」
「シャノン欲しいのか?」
「あっ……えっ欲しいです。でも、他にあげる人がいるなら大丈夫です」
「村長からの報酬としても、もらってないからな。欲しいならシャノンの分もあると思うぞ」
「あっ…ありがとうございます」
シャノンはどこか不満そうな顔をしていた。まぁ今は仕方がない。
「グリズ、この村に雪茶の種とかって売ってるの聞いたことあるか?」
「あぁ、もちろん売ってるぞ。栽培は難しいらしいけどな」
「少しもらったんだけど、自家栽培できるかやってみたくて、失敗した時用に買えるなら買って帰りたいんだ」
「それなら他にも美味しい果物の種や変わった野菜の種があるから後で案内してやるよ」
「助かる。それと……ちょっと話したいことがあるんだ。どこか個室とか用意できるか?」
「もちろんだ。俺の泊まっている宿へ行こう」
「シャノン、悪いけどイバンと一緒に村の中で買い物でもしてきてくれないか?」
「わかりました。私たちが種とか買ってきましょうか?」
「いや、俺もグリズとあとで買いにいくから、シャノンは普通に食べ歩きとかしてきていいぞ」
「私、そんなに食いしん坊じゃないですぅ」
「はいはい」
少しふざけて怒ったようなフリをしたシャノンを適当になだめお金を渡す。
せっかくだからイバンには村の中を見て回ってもらって、俺の買い物よりも美味しい物でも探して食べ歩きの方が楽しいだろう。
待ち合わせはグリズの泊まっている宿で合流するということになった。
それほど広い村ではないので、話が先に終わったとしてもすぐに合流できるだろう。
「イバン、シャノンの言うことよく聞くんだぞ」
「はい」
「私が面倒を見るんですぅ」
シャノンの少しすねた表情が可愛くて、ついからかってしまう。
俺たちはそこで別れて、俺はグリズの泊まっている宿へと向かった。
グリズの宿は村の中でも、真新しくしっかりとした作りの少し高級感漂う宿だった。
さすが、雪結石で儲けた村なだけはある。
商人や冒険者も時期によっては沢山くるのだろう。
部屋の中も、田舎にあると言っては失礼かもしれないが、そこそこ大きな都市にある宿と変わらないくらい設備の整った部屋だった。
グリズの部屋に入ると、宿の人がミントの香りがするお茶を部屋まで運んできてくれた。
爽やかな香りが部屋の中に充満する。ぜひこのお茶も手に入れたいものだ。
「それで、今度はどんな楽しいことがあったんだ? 狼男でも見つけてきたか?」
「あぁ、残念ながら狼男はいなかったけど、ドラゴンがアネサ村の地下にいた」
「ハハハッ! さすがロックだな……面白い冗談を準備してきたじゃないか。それで本当は?」
俺はその質問には答えずにミントのお茶に口をつけた。一口含んだだけで鼻の方へとミントのフレッシュな香りがぬけていった。
なによりも、口の中がさっぱりする。ミントを育てるのもありだな。どこか帰る途中で生えていたら箱庭に持って帰ろう。
「ロック……もしかして本当なのか?」
俺はゆっくりとテーブルの上にカップを置き、グリズの目を見ながら頷く。
グリズは額に手を当てながら天井を見あげる。
「なんとやっかいな……本気で言ってるとは信じたくなかったが……」
それから、グリズはしばらく言葉を失ったままだった。
俺も自分で見ていなかったら信じてはいなかっただろう。
ただ、驚く情報はまだこれだけじゃない。
もう復習はすみました?
第3話まもなく配信終了!
8月5日(木) 午前11時から第4話更新予定です!
ニコニコ漫画
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シャノン「さて、しっかり食べ歩きするわよ。すみません。この串10本ください」
イバン(意外と食いしん坊キャラだった)
イバンの人生最初の買い物としてのインパクトは十分だった。