黒い魔石の効果
お酒を飲んでいたメンバーも、一人、また一人と酔いつぶれて、室内は段々とお祭りの空気から静けさへと変わっていった。
仲間たちも今日は箱庭ではなく、部屋の中で寝ている子が多い。
最終的に起きていたのは、ちびちびと酒を飲んでるドモルテとそれに付き合っているララだけだった。
室内は温風魔法がかかっており、暖かくなっているが全員に毛布をかけてやる。
お腹を冷やすと大変だからな。ついでに部屋の明るさも調整して少し暗くしてやる。
「ドモルテ様、味覚が戻って良かったですね。さぁさ、どうぞ、まだお酒は沢山ありますからね」
「ありがとうララ。ほらララも飲みな」
二人とも酔っぱらっているのか、同じやり取りを楽しそうに繰り返している。
ドモルテはララ用の小さなコップにスプーンで注いでやっている。ララもここまで起きていられるのは、なかなか酒に強いようだ。
「みんな寝たようだな」
「あぁ、昼間だいぶ遊んでいたしな」
そんなことを話していると、パトラが目をこすりながら起きてきて俺の膝の上に座り抱き着いてきた。
「パパーねんねの時間だよー」
どうやら寝ぼけていたらしい。パトラが落ちないように抱っこしてやると、そのまま、スース―と寝息を立てて眠ってしまった。
背中を優しくポンポンとリズムよく叩いてやる。
「本当の親子のようだな。ロックは結婚していたのか?」
「してないわ! でも小さな頃からまわりの子供の面倒を見るのは当たり前だったからな。小さな村だったから親が忙しくて子供同士で面倒をみるのが当たり前だったんだよ」
あの頃は……幼馴染たちとずっと一緒にいた。そう言えば、あの子は何をしているだろうか。俺たちのあとをずっと追いかけてきていた負けず嫌いの子。俺たちと一緒に行くと駄々をこねていたけど……そろそろ村からの独り立ちしてもおかしくはない時期だ。
お酒のせいか、少しぼっーとしながら過去のことを思い出していた。
「ロック、話を聞いてる?」
「えっ……悪い。少しぼっーとしていた。なんの話だっけ?」
「この村の周りに怪しい魔力がめぐらされている話よ。ララに調査してもらったところ、怪しい竜巻や魔力が集まっている場所が全部で6か所あったわ。あれは……多分今回の襲撃で使われるためのスイジュ国の策略のものよ。きっと間違いないわね」
「あなたたちが遊んでいるうちに、私たちはこの村を救うのよ。まぁ明日の調査に協力したいって言うなら協力させてやってもいいわよ? あっあなたたちはここからでれないんですね」
ドモルテとララは自信満々で、勝ち誇ったようにそう言ってきた。
怪しい魔力か……俺たちもいくつか見つけた。
「竜巻って黒い竜巻か? 俺たちも変なものを見つけたんだ。ガーゴイルくん……は寝ているか」
「起きてますよ。僕はお酒には強いので」
ガーゴイルくんはむくりと起き上がると、千鳥足で俺たちが座っているテーブルへとやってきた。明らかに酔っぱらっている。酔っ払いが酔っていないと頑なに否定するのと同じ感じだった。
「ガーゴイルくんがコロン村との境界にできていた結界を見つけたんだ」
「はい。もちろんです。僕にかかれば結界なんて朝飯前ですよ。ちょこちょこっと根元の変なの風魔法で消してやりました。僕だってやればできるんですから。カンパーイ」
ガーゴイルくんが空になったグラスを高々とあげると、そのまま机の上に頭を乗せて目を瞑ってしまった。
「ガーゴイルくんは普段からできる子だよ。やればできるなんて思わなくて大丈夫。いつも助かってる」
ガーゴイルくんの頭をなでてやると、ひんやりとした石の感触が伝わってくる。
「ちょっと待ってください! なんですかその結界って?」
ドモルテとララが顔を見合わせている。
そう言えば、襲われたことと、村長が信用してくれなかった話しか言ってなかった。
「ん? コロン村とアネサ村の間に結界がはってあったんだよ。それをガーゴイルくんが吹き飛ばしてくれたんだ。あと、結界に関係するかわからないけど、この村で魔風穴っていう黒い竜巻が起こるみたいで、それを2か所見つけたついでに竜巻を消しといた。その根元の片方に置いてあったのがこの黒い水晶なんだ」
ドモルテは手元に会ったお酒を一気に飲み干した。
「なんてことを……私が明日その場所にいって調査するはずだったのに」
「ドモルテさま~私寒い中、一人で頑張ったんだよ。怪しい魔力の場所を予測して、ドモルテ様のお役に立てるように、探しまわって頑張ったのに……こいつが……」
いったいどういうことなのだろう?
「その結界、壊しちゃダメだったのか?」
「ダメじゃないです。マルグレットからも実は調査を依頼されていたんです。マルグレットはこの村のまわりに変な魔力がるのを知っていたんですが、自分で調査にいくことができず……私に見て来て欲しいと。まさかほぼ解決済みだとは思いませんでした。その黒水晶ってもらってもいいですか?」
「あぁ、何かに使えるなら使ってくれ」
ララだけは俺のことを睨むように見て来て何か言いたそうにしている。
「私だって役に立てるもん。ちゃんと調査だってしてきたんだもん。褒めてもらうつもりだったのに……」
ララがぐすん、ぐすんと泣き出してしまった。
お酒を飲むと泣き上戸になってしまうようだ。
「ララは偉いよ」
「うるさい! バカ、バカ、バカ!」
理不尽だ。
「それで、あれがなんだっていうんだ? だいぶ前からあるんだろ?」
「そうらしいわ。マルグレットが言うには原因を究明することよりも、竜巻を一瞬散らすだけしかできなかったらしいわ。多分、だいぶ前からここを襲う計画を立てていたみたいよ。商人が来るたびに変な魔力が増え、ドラゴンが暴れるのが増えていったみたいだから。それにしても根元にこんなのが埋まっているのをよく発見したわね。本当に規格外はこれだから……」
「それをやったのは俺じゃなくてラッキーとガーゴイルくんだからな。しかも、それは地面に埋まっていただけだから、見つけたのは偶然だよ。まだ探せば雪結石のところの洞窟にもあるんじゃないか?」
「明日にで探しにいってみます。私たちは自由に歩けるでしょうから。へぇーこれ面白いですね」
ドモルテはその水晶を持ちながら、回転させ魔力を流しながら色々いじっている。
「これも同じような原理が使われていますが、ちょっと独自にいじってありますね。これがスイジュ国の魔法なのかも」
「なんで、結界が張っているところと、張っていないところがあったんだ?」
「それは多分ですが、時間差で発動するようになっていたんだと思います。この魔法結構時間がかかるので、明日の襲撃前にでも斥候が仕掛けを動かすつもりだったのかと思いますよ。もう動かすことはできないですけどね。あっこれなら……ロックさんそこにこれ持って立ってくれますか?」
「いいよ」
俺が立つと、そこにドモルテが軽いファイヤーボールを放ってきたが、俺に当たる前に弾け飛んでしまった。
「ちょっといじったらこんなことできました。これも面白い魔力回路が組まれています。いつかスイジュ国にも行きましょうね」
「あぁ、気が向いたらな。これなら防御力ない奴には便利そうだな。どれくらい持つんだ?」
「この黒水晶事態が周りから勝手に魔力を集めてくるから……ほぼ半永久的に使えるんじゃないかしら。ただ、弱い魔法とかに限りはしますが」
「これもらってもいいか?」
「いいですよ。明日全部拾ってきますので」
俺はこれが必要な子のポケットにそっと入れて置いてやる。
明日起きてから説明してやればいいだろう。
そのまま俺たちも洞窟の中で眠ることにした。