洞窟の家の理由
「ロックさん申し訳ありません。ここの洞窟に今日は泊まってください」
「わかったよ」
案内された洞窟の場所は、ドラゴンの洞窟のすぐ側の洞窟だった。
アンドは俺たちを案内するとすぐに帰っていった。
そこは何に使われる場所なのか、牢屋というには綺麗すぎるし、かといって普通の家かといわれると、中に入ってしまうと魔法で外からしか開けられないようになっていた。
ただ、高さも奥行きはかなりあり、ラッキーが余裕で数匹入れそうだ。
寝泊まりするには困らないようにベットや明かり、テーブル家具などが備え付けられている。
思ったほど悪くない。
「イバン、ここってなんの部屋なんだ?」
「ここは、護衛の冒険者が泊まる部屋だよ。商人が連れてくる護衛の人たちって夜に何をやらかすかわからない人が多いから。少し危なそうな人たちはここに入っていてもらう。ロックさんたちは無害だと思われたから向こうに泊まったんじゃないかな。あとはドモルテさんもいたし」
「そうなのか」
村長はドモルテに鼻の下を伸ばしていたことを考えると、妙に納得する。
俺たちが入ってしばらくすると、ドモルテが普通に入ってきた。
「ロック、聞いてください! 水晶結界を覚えてきました。これで封印をすることができますよ! って言ってもほとんど封印するものなんてないんですけどね。かなり使い勝手は悪い魔法ですが、副産物として魔石から魔力を増幅させることができるので、こっちの方がかなり便利です。いやー楽しい結界魔法でした」
「楽しそうで何よりだよ。新しいことにはどんどんチャレンジしてもらっていいからな」
「それより、どうしたんですか? 昨日と泊まる部屋も変わっていますし」
俺はドモルテにも今までと同じ説明をしてやる。
襲われたことや、村長がまったく信用してくれなかったことをだ。
「なるほど。それを知っていたから、マルグレットはやる気がなかったのね。マルグレットはドラゴンをタイミングを見計らって解放するつもりかもしれないわね」
「ドラゴンを?」
「えぇ、というよりも水晶結界は最高級の結界だけど、自分の代で終わらせたいんだと思う」
「そんなことない! ばあちゃんがそんなことするわけない! ばあちゃんは世界で一番の結界師なんだ。適当なことを言うな骨の化け物! 解放するのはあいつらだ! それじゃあ、おばあちゃんがあいつらの仲間みたいじゃないか!」
「イバン、話を聞け!」
イバンは今まであまり感情を見せる感じではなかったが、いきんり大きな声でドモルテを否定した。
それはマルグレットへの信頼があるのだろう。誰だって、家族のことを否定されたら怒ってしまうのは無理はない。
それが勘違いだとしてもだ。
部屋の中の空気がピリついてくる。
イバンの髪の毛が逆立ち、内包している魔力が目に見えて大きくなっていった。
俺はとっさにイバンの首に軽い衝撃を与えて気絶させ、そのままベットに寝かしつけた。
「ドモルテ、今のって……」
「なかなかな内包された魔力ですね。小さい子でこれほどまでのものを見たことがないです」
足元が大きく揺れ、また地震が起こった。
またドラゴンが暴れているのだろう。
「マルグレットはなんでドラゴンを解放なんてするんだ? ここに封印しておけばこの村は冬でも安全に暮らせるのに」
「この子を跡継ぎにしたくないみたいな感じなんだと思います。ここにいるのは辛すぎるって」
たしかにイバンのことを見ていると可哀想になってくる。
今日もイバンが助け舟を出してくれたことが結果的にとどめになってしまった。
それにドラゴンを解放か……どこか自然の多い所へ飛び去ってくれるならいいが、もし解放されてこの国で暴れられでもしたらしたら大変だ。
もし、本当に数日以内に解放されるとするなら、やっぱりギルドに相談なんて悠長なことを言っている暇はないかもしれない。
「その解放がもうすぐ起こる可能性があるってことだからな」
「何かタイミングを待っているように感じたわ。そのタイミングがいつなのかはわからないけど……」
「そうなると、やっぱり明日の夜の襲撃にあわせてかもしれないな」
イバンは、もうすぐドラゴンが解放されると言っていたが、マルグレットがわざとやるわけじゃないと言っていた。
きっと、解放するのではなく、自然の流れでそうなるように仕組まれているということだろう。イバンはいったい何を聞いたのか。
でも、あの怒りようではそう簡単に聞き出すことも難しそうだ。
それからしばらく、俺たちが話をしていると、ドアが優しくノックされる。
「はい」
「俺だ、ギーチンだ。開けてもいいか?」
「大丈夫ですよ」
「入るぞ」
扉が開けられるとそこにはギーチンやアンドをはじめとする、洞窟で穴を掘っていたメンバーが料理とお酒を持って入って来た。その後ろに家族も連れてきたようで、小さな子供や女性たちが続く。
「どうしたんですか?」
「酒を振舞う約束だったろ? それに、アンドから聞いた話が本当なのか聞かせて欲しくてな」
そういうと、どんどん料理や酒をテーブルに並べてていく。
郷土料理なのか、今まで嗅いだことのない、独特な爽やかな花の香りやフルーツの香りがする。そのいい香りだけで急にお腹が空いてきてしまった。これはかなり美味しそうだ。
でも、ギーチンたちはこんなことをしていいのだろうか?
村の中を二分してしまうようになってしまったら、俺たちもさすがに悪い。
「大丈夫なのか? こんなことをしたら村長に反感を買うんじゃないのか?」
「反感なんか関係ねぇよ。この村は閉鎖的だから危機管理ができてないんだよ。普通は両方の意見を聞いて危なければ、それを少しは検討するはずなのにしないからな……あっテーブルが足りない」
「それならいいけど。足らないテーブルこっちで準備しますよ。パトラ頼む」
「はいよー」
パトラが大きな机を一人で抱えて外に持ってきた。
そんなパトラの登場に、みんな驚いて見ている。まぁそれもそうだろう。
普通、こんな小さくて可愛い子が自分の身体よりも大きな机を持って現れるとは誰も想像していなかったのに違いない。
他のオレンジアントたちも続々と料理などを手にして箱庭からでてきた。
「昼間見た時もビックリしたけど……すごいんだな。部屋の中から逃げ出さずに、わざわざ幽閉されるっていうのも……ロックさんは他の外の人間と違うんだな」
「他の外の人間?」
「あぁ、だいたい今までの冒険者はここに入る前に暴れるか、ここから脱走を図ろうとするんだよ。だけど、ここの入口には結界が張ってあるからそう簡単に逃げられはしないんだ。結構外まで中で暴れている音とか聞こえてくるから村の人間には冒険者とか嫌いな奴が多くてな」
外部の人間が嫌いなのはあるだろうが、冒険者の素行も相当悪かったようだ。
冒険者もピンキリだからな。
ところで、こんなところにも結界が使われているらしい。
最初の時には中から開けられない作りなのかと思ったが、そんな使い方もできるとは驚きだった。
「こんなところにも結界なんてすごいな」
「そうだ。中から扉を壊してもいいから開けて見ろ」
「いいのか? 多分壊れるぞ」
ギーチンは得意げにふんと鼻をならす。
そんなことできるわけがないといった感じだ。
「いくらロックが自信満々でも、そう簡単にはいかないぞ」
「よし、じゃあちょっとやってみるか」
扉に手を置いて魔力の解析をしてみると、ドラゴンのような強固な結界ではなかった。これなら簡単だ。それにしてもこの結界面白いな。
普段自分が使っている魔法とはまた違った魔力を感じる。
ドモルテから後で教わるのもいいかもしれない。魔力の流れを追っていくと部屋の中に隠されて水晶が置かれているのがわかった。
この水晶がどうやら、結界を作る魔法陣の役割をしているようだ。
ということは、この流れを断ち切れば……。
一度扉から離れ部屋に置いてあったタンスの扉を開けると、そこには手のひらサイズの水晶があったので、それを持ってもう一度扉に手をかける。
あれ、この感じならさらに強くもできそうだな。
水晶の位置で力の増幅が全然違う。
「ロック、解析してさらに強化してとかやってないですよね?」
「もっもちろんだよ」
ドモルテが俺の方をジト目で見ながら言ってきた。
危ない、解除するつもりが面白ろそうだからって遊んでしまうところだった。
「ここ数日やっていた私の努力をあっさり無にしたりしたら泣くからな」
「ドモルテ様、こいつは前科がありますからね」
最近見ていなかったララがドモルテのポケットから顔をだしてきた。
「ララ、なんか久しぶりじゃないか?」
「この村に来てからちょっと出かけていたのよ。ドモルテ様の命令でね! 寒くて死ぬかと思ったけど、今回は私たちがだしぬくわよ。前回の聖魔法の時はこいつにやられましたが、今回この村を救うのは私たちだから」
ララは小さな身体を大きくそらしながら、自信満々といった感じだった。
救うというのはドラゴンをどうにかするってことなのだろうか?
「なんか調査でもしていたのか?」
「まぁあんたは何も知らずにドモルテ様に任せておけばいいわ。ドモルテ様がすべて問題を解決してくれるから、平伏するのよ」
「そうなのか。まぁ何かあれば言えよ。手伝ってやるから」
俺はそう言いながら結界魔法を解いて扉を開ける。
「さらっと開けやがった」
「嘘だろ」
「ロックってそういうところありますよね」
開けろと言われたから開けただけなのに理不尽だ。
箱庭からガーゴイルくんやみんながでてきて、どんどんパーティの準備を始める。
こんなのんびりしていていいのだろうかと思ったが、襲撃は明日ならいいかと開き直った。
せっかくこの村の人たちが歩み寄ってきているんだから、一緒に楽しむしかない。
緊張感が足りない気もするが、意味もなく不安になったところで意味はないのだ。