イバンの告白とドラゴンの封印
俺たちが、山頂に戻ろうとすると、マルグレットの孫のイバンが森の中からこちらを見ていることに気が付いた。
恥ずかしがり屋で無口な子だけど、もしかしたら、こんなところにいるってことは、俺たちと遊びたいのかもしれない。
「イバン、一緒に遊ばないか? みんなでそりをしてるんだけど」
「お兄ちゃんたちは……僕たちが怖くないの?」
「怖い? 全然怖くないよ」
「だって、僕たちにはあのドラゴンを封印する力があるんだよ」
僕たちには……マルグレットは彼に魔法の才能あると言っていたが、彼もドラゴンを封印することができるだけの力があるということだろうか。
「それは才能であって、恐れる必要はないよ。俺たちだって色々な力があるけど、使い方さえ間違えなければ大丈夫だよ」
「お兄ちゃんたちは優しいんだね。いいこと教えてあげる。そりで遊ぶよりも早く村からでた方がいいよ。もうあまり時間がないけど……」
「どうして?」
「理由を言っても……僕の話なんで誰も信じてくれないし、きっと誰もわかってくれないよ。僕は呪われた子だからね」
「イバンくん、そんなことないわ。信じられない人が多いけどロックさんは大丈夫よ」
シャノンが優しく彼に話しかけた。
「私も……ちょっと前まで誰にも助けてもらえないと思っていたの。私にはある呪いがかけられていて、私に出会う人たちみんなが死んでいったわ。だけど、ロックさんは私のことを怖がらずに助けてくれたの。この世界に絶望しかなかった私を救ってくれたの。だから、今あなたが辛くてもロックさんなら救うことができるわ」
シャノンが言っていることはかなり大げさだ。
俺だってなんでもできるわけではない。
今回のことについて積極的に絡んで行くつもりはなかったが、でも、イバンが助けを求めるなら話は別だ。
「村で何か起こるの?」
「もうすぐ、ドラゴンの封印がもうすぐとける。どうせお兄ちゃんたちも信じてくれないだろうけど」
イバンは不思議な子だ。普通の雪人とは何か違う力を感じる。
その子の言っていることを無下にすることはできない。
「信じるよ。だけど、君のおばあさんがあれだけ頑張っているのになぜ?」
「もうすぐわかるよ。早く帰った方がいい。彼らが戻ってくるから」
彼らというのは……。
「魔道スイジュ国の商人がなにかこの件に絡んでいるってことなのか?」
イバンはそのまま肯定も否定もしなかった。
それはつまりイエスということだろう。
「どうして君がそんなことを知っているんだい?」
「僕は……聞いてしまったんだ……」
『ロック、お客さんがきた』
イバンが何か話し始めたところで、雪に同化するように白い服装の集団が俺たちを遠巻きに囲んでいた。全部で6人くらいだろう。
たいした数ではないが、彼らはいきなり俺たちに向かって一斉に弓矢を放ってきた。
「ラッキー」
『あいよ』
ラッキーが大きく尻尾を振り、俺たちの周りに守りの風法を発生させる。
飛んできた矢は、そのまま風に乗って速度を増し、弓矢を放った相手にと突き刺さっていった。
もうラッキーがいれば、どれだけ矢が降ってきても問題なさそうだ。
シャノンはイバンの元へ駆け出すと、イバンを抱えて戻ってきた。
「大丈夫だよ。ロックさんは世界で一番カッコよくて強いので。たまにふざけすぎる時もあるけど、ビックリするくらい簡単に問題を解決してくれるからね」
「シャノンさん……苦しい」
思いっきりシャノンの胸に抱きしめられて呼吸が苦しかったのか、イバンは顔を赤くしながらシャノンを見ていた。
「あぁ、連れて来た弓部隊がほとんど全滅じゃねぇか。誰だよ。民間人をさくっと狩るだけの簡単なお仕事ですって言ったの」
そこにはあまりこちらで見ない杖を持った粗暴な男と、それとは対照的に騎士のようなイケメンの男がいた。
「作戦を変えるぞ。こいつらから先に始末しておかないと後が面倒になる」
「わかったよ。あんたらに恨みはないがここで死んでくれ」
杖を持った男がいきなり、俺たちを包めるくらいの火球魔法を放ってきた。
さすが、魔道スイジュの魔法使いだ。
かなりレベルの高い魔法使いだということがわかる。
ただそれはもちろん、一般的に見ればという話だ。
ドモルテの獄炎の館などの古代魔法を見ていると……残念ながらレベルが全然違う。
飛んできた火球をラッキーがあくびをしながら、尻尾で地面に叩きつけた。
『もっとくるかな? 次は打ち返した方がいい?』
「まかせるよ」
ラッキーの尻尾が退屈そうに、パタン、パタンと動いている。
残念ながら、遊び相手になって楽しませてくれるほどの力はないようだ。
「ご主人様、私の方でやってしまっていいかしら? ラッキーさんは物足りないようですし」
「いいよ。シャノンは?」
「私も行きます! メロウさん一緒に頑張りましょうね」
「行きましょう。先ほどのラッキーさんの恐怖に比べれば全然ですわ」
一瞬メロウがラッキーの方を見るが、一瞬で目をラッキーが目をそらす。
ラッキー……頑張れ!
「舐めやがって。女だからって手加減しねぇぞ」
彼らは自分たちの力量差がわかっていないようだった。
バカの一つ覚えのように火球を放ってくるが、メロウはそれを水魔法で消火し、むしろその勢いのまま男の身体にウォーターボールを打ち付ける。
「こんなところに、なんでこんな優秀な女がいるんだよ。話が違うだろ……」
「それはお前が弱かったってことだ。私なら……」
宙を舞うようにシャノンがもう一人の男の顔面に蹴りをいれると、見せ場を作ることなくもう一人も撃沈した。
シャノンの蹴り一発って……あまり見くびってはいけないが、どうやら敵の戦力はたいしたことはないらしい。
それにしても雪山で足元を取られやすい中でもシャノンのあの動き……成長したもんだ。




