ラッキーとそり遊び
「それなら、一度俺も行ってみるか」
『ロック、一緒にそりで行こうぜ』
ラッキーが激しく尻尾を振って、そりに一緒に乗って欲しそうにしてくる。
だが、傍から見ているとそり遊びという名前の落下にしか見えない。
「ラッキーの気持ちはわかるが……さすがにこの崖を飛び降りるのは……」
「ロックさん、せっかくだから経験しましょう」
「そうですよ、ご主人様!」
シャノンとメロウが、私たちだって行ったんですからと引きつった笑顔でせまってきた。圧が半端ない。そうは言われても……なんとかして断る理由を探さなければ。
「あっ……えっと……そうだな。ほら……」
『全員で行けば問題ないな』
ラッキーの尻尾が最高潮に激しく振られ小さな竜巻がおこる。
「えっ? 嘘」
「ラッキーさん私は大丈夫です」
メロウも、シャノンも一生懸命逃げようとするが、ラッキーからは逃げられるわけがない。器用に俺たち3人を前脚でそりに乗せると、そのまま風魔法で一気に空中へと飛び出した。
一瞬ふわっと身体が宙に浮き全身が軽くなる。
「シャノンさん!」
「メロウさん!」
俺を真ん中にして二人が手を取り合う。
水平だったそりが、斜めになりもの凄い勢いで滑っていく。
乗っている時の安心感はラッキーの方があるが、やってみるとこれはなかなか面白い。
なにより、ラッキーが前脚で3人を抱き込むように抱えていてくれることで、モフモフのいい背もたれになってくれているのが気持ちい。
これは癖になりそうだ。
高速で滑っていくそりはさらに速度を増す。
『ロック、楽しいな』
「そうだな。ラッキーがはまるのもわかる気がするよ」
『だろ? ならもっと速くするぞ』
シャノンとメロウが一瞬、俺のことを化け物でも見るような顔で見てきたが、きっと気のせいだ。
ラッキーがさらに風魔法で加速させると、周りの景色が流れるように過ぎ去っていく。
「ラッキーこれはやりすぎじゃないか」
『わかった』
まったく……加減を知らないんだから。
シャノンとメロウはもう、恐怖で固まってしまっている。
俺は優しく二人を抱きしめる。
「大丈夫。そろそろゆっくりになるから」
「ロックさん……」
「ご主人様……」
「「ラッキーさんに加減を教えてください」」
『ばふっ?』
ラッキーが風魔法を逆に向けたことで、そりのスピードが段々とゆっくりになっていき無事に止まった。
「ラッキー楽しかったけど、加減だって」
『楽しくて、ついはしゃいじゃったんだよ。だってみんなで一緒に乗りたかったじゃん』
ラッキーが尻尾を隠しながらうなだれる。
「人によって好き嫌いはあるからね」
珍しくラッキーがうなだれているのを見て、二人が優しく声をかける。
「ラッキーさん、少しは度胸がついたというか……」
「そうね。挑戦することはいいことよね」
『シャノン、メロウ……じゃあもう一回……』
「「乗りません!!」」
二人の息がぴったりになってきている。
「それよりも、魔風穴はどこにあったんだ?」
『もう少し先だ』
そりを箱庭にしまって、ラッキーを先頭に進んでいくと、少し開けた場所に黒い竜巻ができていた。
前の洞窟で見たものよりも、一回り大きい。
なんでこんな開けた場所にあるのだろう?
「ラッキー風魔法で……」
魔風穴を飛ばしてもらおうとしたところ、地面がそこだけ彫り返されていることに気が付いた。
『ロックどうした?』
「ラッキー、地面を削らないように風魔法でこの黒いのだけ消してくれる?」
『あいよ』
ラッキーが風魔法で魔風穴を消したあとの地面を掘り返して見ると、白線で渦巻き状の模様が書かれた黒水晶が埋められていた。
「ロックさんそれって、なんですか?」
「わからないけど……魔風穴は人為的に起こされているものなのかもしれない。あとでドモルテに相談してみよう。人為的に作られていたら、何か意味があるはずだから」
俺はそのまま黒水晶をポケットにいれる。
『じゃそれまでもう一回そりで遊ぼう……』
ラッキーがシャノンとメロウの方を見たが、一瞬で目をそらした。
どうやら、二人の本気が伝わったようだ。
うん。空気を読むのって大事だからね。