スイジュ国への通路
「村長に確認しなくていいのか? 結界のことだったらマルグレットとか」
「大丈夫だ。俺たちは何も見ていない。あそこは本来ならコロン村とのただの境界のはずなんだ。それを俺らに知らせずに結界をはるなんて、村長だろうと、マルグレットだろうと許されるはずはない」
「それじゃあ、ガーゴイルくん破れそうなら破ってお使い頼むよ」
「わかりました。急いでいってきますね」
ガーゴイルくんが飛び立つと、あっという間に結界の場所までたどり着いた。
透明だからここからだとわかりにくいが、なにやら壁のようなものがあるようだ。
どうするのかと見ていると、森の中へと下りて行き、ガーゴイルくんが風魔法を放った。あそこに結界の元となるものがあったのだろう。
あれだけ大きな結界の割に、ガーゴイルくんで消せるというのは、よっぽどギリギリの魔力で作られていたのかもしれない。
マルグレットが作った水晶の結界だったら、あんな簡単に消せるものではない。
「ロックさん、この後なんですが、どうされますか?」
「俺の仲間たちにせっかくだから雪山で遊ばせてやりたいんだけど、村の外なら自由にしていても問題ないよね?」
「そうですね……大丈夫です」
「それじゃあちょっと、山の方へ行ってくるよ」
「この辺りはドラゴンの魔力があるおかげで、あまり凶暴な魔物はいないですが、気を付けてくださいね。俺の方は雪結石が大量にでてきた報告と、夜のお祭りについて村長と他のメンバーに相談してきますから。なにかあれば、村長の家にきてください」
「わかったよ。ありがとう。ラッキー」
『あいよ』
アンドと別れて、しばらく歩いてからシエルを呼びだした。
シエルは昨日と同じように俺に顔に身体を摺り寄せてくる。
それがとても、くすぐったい。
「シエル、昨日のスイジュ国の人たちがどこへ行ったのか案内できるかい?」
シエルが頷き、肩に止まったまま羽で方向を示す。
「ラッキー頼んだ」
そこの場所は俺たちが雪結石を掘った洞窟よりもさらに山側に進んだところだった。
たくさんの人によって新雪が踏まれたあとがあり、わかりやすかったが、途中で足跡が消えてしまった。
「シエル、ここから先は?」
シエルが茂みの方を羽で指し示した。
どうやら、魔法で足跡を消したようだ。
『ロック、気を付けた方がいい』
「わかった」
茂みを覗くと、そこには白く雪に偽装された扉があった。
「ここの中に入っていったってこと?」
シエルは大きく頷く。
俺はラッキーからおり、ゆっくりと近づいて扉を開けると、中は真っ暗だった。
普通は光苔や魔道具など、明かりをつけておくことが多いが、見つからないようにしているのだろう。
これで……この村は魔道スイジュと繋がっていることが確定した。
『ロック、これ以上は行かない方がいいぞ。いろいろな魔力が混ざってる。向こうから来るのはいいが、こちらから行くにはトラップだらけだ』
「わかったよ。ラッキーありがとう」
冒険者としての調査はここまでにしておく。
この通路をどうするのかは、冒険者ギルドか、国での判断にゆだねるしかない。
収入が少ない田舎の村が、国交がない国と繋がっていることは個人的には悪いことではないが、魔法に特化した国が、いつ敵になるともわからない危険を考えると報告だけはするしかない。。
それにしても……よくあの道具屋は魔道スイジュがこの村に使者を送ったなんて噂を知っていたものだ。
こんな道を通ってきていたら、あの村に情報が共有されることなんてなさそうだが。
これ以上は終わりだ。
「シエルありがとうな」
シエルはまた俺の顔に身体を摺り寄せてくる。本当に可愛い奴だ。
『ロックどうするんだ?』
「もう、これ以上は調べる必要はないから、パトラたちを雪の中で遊ばせてやろうかと思ってるよ。このまま山頂の方までいけるかい?」
『もちろん』
ラッキーに飛び乗ると、そのまま猛スピードで森を突っ切り、山の上にまで走っていく。
久しぶりにラッキーに乗ったが、流れていく景色を見る余裕が生まれていることに気が付いた。
ダンジョンで会った時は、周りを見る余裕すらなかったっけ。
ラッキーはかなり急斜面な場所もかまわずに進んでいく。
ちょっと急すぎじゃないか。
あっという間に、俺たちがついたのはスイジュ国が見渡せる山頂だった。